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「母さんが少しおかしいんだ、なんか色気づいたと言うか化粧なんかして、今まで私を騙して耳が遠くて聞こえないふりをしていたのかどうか、それが昨日から私の話に意見をするようになった」
「いいじゃないか、母さんが若くなりゃお前も手が掛らないだろ。ボケるよりよっぽどいい。先に言っとくけどね、金の無心ならお断わりだよ。あの家をお前が全部相続することで母さんを面倒看ると決めたんだ。忘れちゃいないだろうね」
確かに姉の言う通りです。
「金は要らない、なんとかなってる。一度母さんを見舞いに来て欲しい。姉さんと会えばまた戻るかもしれないし」
姉は即答を避けました。昔から母とは気が合わず、中卒で就職するとすぐに家を出て行きました。
「明日にでも顔を出すよ」
「ありがとう、助かるよ。沙耶ちゃんは留守かい?」
「沙耶はとっくに所帯を持って家を出ているよ」
「そうか、ご無沙汰しているからな。いや沙耶ちゃんがこの二日ばかり訪ねて来てくれて食事の支度をしてくれているから。礼が言いたくて来たんだ」
姉は不思議な顔をしています。
「いつ?」
「だからこの二、三日」
姉が大笑いする。
「馬鹿お言いでないよ、沙耶は仙台に嫁いでんだよ。こっちにくりゃ先ずあたしんとこに顔を出すさ」
姉に一蹴された。ではあの女は誰だろう。後姿しか観てはいないがまだ三十路を回ったばかりの女だった。
「それじゃ沙耶ちゃんじゃないのか、じゃ一体誰が台所にいたんだ」
「お前の目の錯覚じゃないのかい、母さんより先にぼけちゃ誰が面倒看るんだい。何かおかしなものでも食ったんじゃないのかい?」
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