いつもより早い朝

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いつもより早い朝

前触れもなく意識が浮上してきて、体に染み付いた習慣から機械的に右手がスマホをつかむ。アラームがなり始める、ほんの2分ほど前の画面が網膜に映り込んだ。 まだ薄暗い室内に液晶の明かりが眩しくて目を細める。カウントアップしていく時計のデジタル表示をただ見ているが、その行動に意味はない。頭からの指示が完全に止まっていて体が動かないだけだ。 いつもより1時間ほど早い。……いや、違う。その必要があるからセットしたんだった、自分で。そう頭の中を整理しながらアラームを解除する。 ほぼ決まったサイクルで寝起きする生活習慣が続いているせいで体内時計は分単位で狂いがないということが分かった。いつもと同じ時間で起きるなら、目覚ましなんてまず必要ない。たださすがに1時間早いと自信がなかったのだが、心配はなかったらしい。 …………若干、動き出すことを体が拒否しているが。 (今すぐ動け。) 寝起きで、ろくに働いてない頭でも下せる単純な命令を走らせる。寝ないのであれば、こうしているだけ時間の無駄だ。やることがあるから早くに起きているわけで、余分に惚けるためじゃない。気力で体を引きずるようにして重力に抗う。正直、動き出してしまえばこちらのものだということが分かっている。 寝具を片付けながら立ち上がるところから、朝のルーティンワークが始まる。そのまま部屋を出て、軋む板張りの廊下を渡って洗面台へ行く。顔を洗って、身だしなみを整えて……ちょっと浮いた状態になっている頭髪をどうしようか。いったん軽く濡らして撫でつけておく。大抵の場合はそれくらいですぐ落ち着くが、念のために後でもう一度確認しよう。 外に出られるよう、着替えを済ませてから無造作に壁に立て掛けられた状態の竹ぼうきを手に庭先に出る。主な生活空間として利用している離れの周囲一帯を人が参拝に訪れ始める前に清掃してしまうところまでが一連の流れだ。
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