神社と石

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神社と石

毎日清掃しているとはいえ、やはり屋外なので天候の影響は大きいし、何もない離れとはいえ、人が入り込めないわけではない。なので見て回っていると何らかの痕跡が残っていることも珍しくはなかった。こういう部分の清掃を怠っていると荒れてくる原因となって自分が困ることになる。 石畳の上にある落ち葉や花殻を集め、掃き清める。石の上を滑るほうきの立てる摩擦音が、どこか覚めきらない意識を揺り起こしにかかってくる。 最後に、石畳に乗り上げてしまっている玉砂利をもとあった場所に戻すと、それだけで大体の見た目が整った。神社と石は切り離せないほど縁の深いものだ。歩きやすさを考慮すべき部分は石畳で、それ以外も基本的には玉砂利が敷かれている。これは雨が降っても水捌けが良く、水溜りなどが出来にくく神事に支障がないようにするための工夫のひとつだ。特定の場所が「清浄な場所である」と示すために、その場所を石で囲うこともある。 ふと、傍らに佇む石灯籠に目がとまった。素材が石、という点で言うなら、この石灯籠ほど存在感を放っているものは無い。無いのだが、あまりにも形が整いすぎていてそれが石でできているということを割と最近まで意識していなかった。生まれてこの方、ずっと神社の中で生きている為、あまりにも当たり前にそこにあったというべきか。考えてみれば、そこに「ある」ということは誰かが作ったということなのだが。 そしてまさに今日はその、作っている人物の工房へ足を運ぶことになっている。関東圏某所にて小さな工房を構える方波見石灯籠の職人と奇遇にも知り合うことになって、それからというもの時々連絡を取り合っている。まさかピンポイントで石灯籠という神社と切っても切れない物を作る職人と直接知り合うことになろうとは思いもよらなかった。 思考を切り上げて掃除用具を片付け始める。ふと、母屋の方角から人の気配がしたため慌てて足早に引き上げてきた。今、姿を見られると余計な仕事を振られるような気がして仕方がない。別に始発電車に乗る必要はないのだがあまりここで色々やっていくのは厳しい。昨晩のうちに用意してあった荷物を手にした後、思い出してもう一度鏡の前で身だしなみを確認する。間違っても大河原家の人間が、休日だからといってだらしない恰好をしていると思われるわけにはいかない。 問題ないことを確認して、戻り際に戸締りをしていく。石畳を蹴って、慣れた道を辿り、早朝人気のない通りに出て駅へと向かった。
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