家庭教師はめんどくさい

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「これでちょっとはやめたくないって思いました?」 「い、いや、俺の決心は固いから」 「決心?ってことはやっぱり別の理由があるんですね。なんですか?」 「それは言えない……」 「なんでですか?やめるならそれなりの理由知りたいのっておかしいですか?」 ただの家庭教師だから、そこまで思い入れがあるのか、とは思うけど、俺も仲良い先輩が引退する時とかやっぱり寂しかったからそれと同じと言われれば納得はできるし、 「いや、おかしいとは思わないけど……」 「じゃあ、教えてくれますよね!」 「學業面で困ったことはないけど、もうちょい力を入れなきゃいけないな、っていう感覚はあって、だから、バイトを減らそうと思ってて……」 本當のことは言えないし、言いたくないから必死にはぐらかすほかにないが、海人くんは納得のいかない顔をしている。 「じゃあ、なんでうちなんですか?自分で言うのもなんですけど、俺って言われたことはやるし、結構優秀な生徒だと思っていたんですけど……」 「それはそうなんだけど、こっちの予定の組み方的に、」 「なら、曜日を変えましょうか?部活ある日もあるのでそれ以外にはなりますけど」 「……わかった。実は彼女ができて、その人に家庭教師は一対一になるから辭めてほしいって言われたんだ」 「俺、男の子ですけどね?男の子と一対一より、塾で同僚といい感じになる確率の方が高いと思いません?」 言い返せない。 「……」 「わかりました。それだけ言いたくないなら諦めます。今までありがとうございました」 年下の彼が折れる、というのがなんか申し訳ない気がして、でも、ボロを出して傷つけるのはもっとだめだと思って、俺に言えたのは社交辞令みたいなセリフだけだった。 「こっちこそ、ありがとう。楽しかったよ」
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