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そんな彼のことなど忘れて4年生になった時、サークルに新入生が入ってきた。俺は流石に学年的に引退していたが、どんな子が入ってきたのか気になって、同期と一緒に差し入れを持ってサークルへ行った。フレッシュな一年生たちに、自分もこんな時代あったっけ?なんて思いながら見渡していると、見覚えのある青年がいた。大学2年の時、少しだけ教えて、そして、よこしまな感情を持ってしまったことから家庭教師をやめた彼だ。大学生になったからか、2年経ったからか、少し大人びた。
「柳さん、お久しぶりです」
俺の視線に気づいたのか、こっちを見て会釈をしながら話しかけてきた。
「久しぶり。元気にやってたようでよかった」
すぐに絞り出せた言葉はそれだけだった。
「あれ?知り合い?」
「はい。ちょっと勉強を教えてもらってたことがあるんです」
「あー、そういや、家庭教師のバイトやってたもんな」
「そうそう」
「それで、同じ学科なので、迷惑でなかったら授業のこととか教えてもらえませんか?」
え、同じ学科なの?
「いや、でも、3年経ってると変わってるかもしれないし、常に対応できるわけじゃないから2年生に聞いた方が役に立つんじゃない?」
「冷たいなー。そんなん何人いてもいいんだから手伝ってあげなよ」
なんも知らない、まあ、察しようもないのだけど、同期が無責任にそう言う。
「わかった。じゃあ、いつも返せるわけじゃないけどそれでもよければ」
「ありがとうございます!」
あの時と変わらない笑顔に心が揺れた気がしたのは気のせいだろう。
長居するのもあれなのでそれからすぐ帰った。
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