閑話休題(1)

1/1
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

閑話休題(1)

「俺はさぁ、寝ることが大好きなんだよ。夢が見られるじゃん。ファンタジーだろうがサスペンスだろうが、夢ってアホみたいな内容で、何でもできちゃうわけ」 「でも僕は怖い夢は見たくないと思うなぁ」 「そう? ホラーだって本当に死にやしないんだから、俺は楽しんじゃうよ」 「海斗(かいと)は強いんだね」 「ユキくんの方が強いよ。性格も根性もあるし、ち○こだってデカい」  俺が冗談めかして言うと、ユキくんはクスクスと笑った。午前2時、古ぼけたアパートの一室、ダブルベッドの中、そして恋人のユキくん。全てが揃っている素敵な世界だ。俺のための、完璧な城。  ガバリとユキくんに抱きついて俺は甘えた声を出した。ユキくんはマイナスイオンを出しているから、抱きつくと幸せホルモンがいっぱい出るのだ。 「明日の仕事行きたくないよぉ」 「ほらほら駄々をこねない。頑張って行ってきて。海斗はヒーローなんだから、しっかり市民を守ってくださいな!」  ユキくんは俺の背中をぽんぽんと優しく叩いてくれた。癒しだ。完全なる癒し。甘いボイスに優しい対応。彼以上に母性に満ち溢れた彼氏に出会ったことは、今まで一度もない。  俺は感涙を流しながら、ユキくんの胸に抱きついた。おっぱいに埋もれて塩水と鼻水をこすりつける。ユキくんは怒らない。ユキくんは文句も言わない。ユキくんは俺を肯定してくれる素敵な彼氏。雪のように透き通った髪と、甘いマスクが魅力的な、最高の彼氏。 「ユキくん結婚して」  俺の求婚に、ユキくんは苦笑した。 「ごめんね。僕じゃ君につり合わないよ」  ユキくんは最高の恋人だ。──でも俺とは結婚してくれない。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!