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監禁刺殺事件の隅で
生きてて、そんな酷い目に遭った事はない。
だが、こんな物騒な時代に生きて、この言葉と無縁とか、そう言うホラー映画等が好きなオレの女は、多分、頭が壊れている。
オレが何故、麻生直美を選んだか、その真偽は、実は性格ブスなだけで、顔自体は、平々凡々、普通の女だ。
だが、顔が綺麗なオンナには飽き飽きしていた。
街中で、女子高生がペダルを漕ぎながら、その鍛え上げられた筋肉美に見惚れて、見入ってスゲェ…と感嘆するが、そんな話を顔に出してするべきじゃない。
ナァ、直美。オレにはやりたい事が有ってよー
お前、どっかのジェイケー狩って、三人でスリーピーしたいんだ。
…またその話?
怪訝な目で彼女は、信じられない顔をする。
辞めてよ、そんな酷いことしたら捕まるから…
じゃあ、アイドルの脚を触らせてと頼め。代わりに。
…そんな事!したら捕まるよ…!!!
…わかった辞めた。
…わかってくれた?本当にそんな事できるワケ無いじゃない。
お前が太宰治のグッドバイの汚部屋に住んでる、烏の様なオンナだった。
それは笑笑、本当に嗤える。
コレはマジな話なんだが、オレはあの太宰の遺作のその真っ黒な汚ねぇ面をした、そのオンナに恋していたんだ。信じられるか?
…いや、信じられない
それがお前だと言ったら?
…いや、辞めてよ。本当に…そう言う事は言わないで…
彼女は太宰治のファンで、人間失格を愛読していた。
これは本当の事だが、17歳当時、図書館で読んだその本の葉蔵は、気に食わなかったキャラだったが、それが後年、自分自身だと気づいて、彼女もその事を感慨深そうに、事あるごとに指摘する。
そうか、お前が太宰治好きなのは、お前が人間辞めたいからだ。
そんで、恥の多い人生を歩んで来たのは、他ならぬオレ自身だったーそんな事実に想い至る訳だった。
とんでもない話だ、オレがその作品の主人公だったーなんて、信じられない話だ。
オレのオンナは、そんな欠落者のオレを好きになった事になり、それは、彼女を作った事のないオレには快挙であり、今後もそんな奴は現れないだろう。
ここまで、直美に心を赦したオレは、存外、いや、かなり凄い漢だ。
それは伊達ではあるまい。
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