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第80話 幸せの行く末
それから数ヶ月が経った。エミリオはジェスの酒場兼住居に引っ越してきて、満ち足りた生活を送っている。
何も変わらないことが幸せだと、エミリオは思っていた。図書館で働いていることも、ジェスの料理が美味しいことも、彼のことを愛しているということも。
一緒に暮らして気付いたのは、ジェスは朝が苦手だということと案外寝相が悪いということ。
知らないことをひとつずつ見つけては、宝物のように胸に抱く。そんな生活が、この上なく幸せだった。
「それじゃあ、いってきます」
「おう。気をつけてな」
ジェスが作ってくれたお弁当を持って、エミリオは扉を開ける。
きらきらと眩しい太陽の光は一日の始まりを祝福してくれているように思えて、エミリオは自然と笑顔になった。
エミリオがジェスと一緒に暮らすことになって、町の住人たちは最初は驚いた様子だった。けれど慣れてしまえばジェスとエミリオが一緒にいることが当たり前になって、誰も違和感を持つことはなかった。
「――もう夏か」
吹き抜ける初夏の爽やかな風を受け、エミリオはふわりと笑う。
夏を、秋を、冬を、そしてまた巡る春を。すべての季節を愛する人とともに過ごそう。
図書館へ向かうエミリオの足取りはいつもより少し、軽やかだった。
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