123人が本棚に入れています
本棚に追加
「そもそも何故ハイドランジアのシンシア王女がトリステスの皇城で開かれたパーティーに出席していたのだ? あの王女はハイドランジアから一歩も国外に出た事は無い姫だぞ? 北大陸から南大陸に渡るのは船しかないんだ。しかもあの国は内陸にあるため外海に通じる港は持っていないんだぞ?」
「ですからきっと魔法ですわ」
「若しくはスクロールですわ」
唾を散らして国王に迫る二人と渋顔で考えるジャージル国王。
「そんなに簡単にあのハイドランジアの国王が掌中の珠の王女を国外に出すものか」
脳裏にこっちを向いて舌を出すハイドランジアの国王フィリップ・ハイドランジアの顔が浮かび更に不機嫌になるジャージル。
「伯父様!」「大伯父様!」
「分かった、分かった。兎に角今は駄目だ。魔法奴隷も間諜も今は貸せんのだ」
「「何故ですの?」」
「お前達、此方に着いたばかりで分からんだろうが、今我が国は大変な危機を迎えておる」
「「え?」」
「だからな、ちょっと大人しくしておれ。時期が来れば又そちらに魔法奴隷を送るから。儂とてトリステスを属国として手中に納めたいという気持ちはあるんじゃ!! ハイドランジアの魔法使いも欲しいのだ。頼むから大人しく過ごしておれ」
「・・・・」
「伯父様、私はトリステスの年寄り貴族の後妻として嫁ぎましたわ。いつかあの国を手に入れるという伯父様を信じて・・・もう夫は亡くなり私が爵位を継ぎましたけれど。娘は皇妃になる為だけに厳しく育てて参りました」
「分かっとる」
渋顔のままで答える国王。
「忘れないで下さいませね」
そう言って扇で口元を隠したままソファーからスッと立ち上がる母親。
それに付き従うように立ち上がる美しい顔立ちの娘は、確かに所作は美しく洗練されているようだ。
二人が連れ添いドアから出ていく様を渋顔のまま見送るジャージル国王。
――そしてその一部始終を物陰からじっと見つめる二つの淡青色の瞳に誰も気付く事は出来なかった・・・
最初のコメントを投稿しよう!