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10 我儘なイケオジ
グエンは転移門に現れた彼女を見た時にこの人だと思った。
それは思考じゃなくて本能だった。
見たこともないような輝きを纏って現れた彼女は、まるで乾き切っていた大地に恵みの雨がもたらされた時の様な―― 自分の乾いていた心に、慈愛の恵みがもたらされたような錯覚を起こすような存在で。
ずっと自分が欲していた感情が自分の中にまだ燻っていたのだということを思い出させたのだ。
――人を好きになり、莫迦みたいにその人だけに夢中になってその人のこと以外は何も必要ないと思える位に溺れてみたい。そして出来れば相手にも自分に溺れて欲しい――
帝国を支える為だけに走り続けてきた昔の自分が置き忘れて来たモノ。
自分の子供達を見ていて羨ましいとも愚かだとも思えるような一途さ――
自分は彼女よりずっと年上で。
自信なんかは全然無くて。
理由はホントに後から考えて取り繕ったようなもので、計画性なんか皆無で。
だからこそ自分が皇帝という身分のまま愛する彼女を妻に迎える事が、彼女の身の危険に繋がるような気がして。
グエンは嫌だったのである。
だったら彼女を伴って1回逃げてみようか? と彼は思ったのだ。
折しも長男である皇太子が新婚旅行から帰ってくる事になっている日が近づいて来ていて、その船は一時この国の港に留まった後、すぐに出港してトリステスの港に帰ってくるのは1年後だ。
――だからある意味賭けだったのだ。
彼女が乗るのを拒み帝国妃としてトリステスに残ろうとするのか。
それとも我儘な自分の申し出を受け入れて共に船に乗るのか――
だけどそんな馬鹿げた行動をしようとする自分に彼女は何の衒いもなく微笑んで、差し出した手を取ってくれた。
それはある意味自分という男だけを受け入れて欲しいという、彼女に対するグエンの我儘な希望が叶えられた瞬間だったのである。
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