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息ができないほどの煙炎と、焼け焦げた匂いがする。
火の海が見えた。
広漠とした平原。見渡す限りの赤が、彼岸の紅が、血のような緋が広がっていた。
轟々と焔が囲み、今にも襲い掛かろうと待ち構える中、一人座り込む。仲間であった彼らの亡骸を抱えて。
犬の口は破壊され、雉の翼はもぎ取られ、猿の胴は引き裂かれていた。
どうして、なぜ――……!!
誰かがそう叫んでいるのが聞えてきた。
目が痛い、耳が痛い、喉が痛い。
けれど、あまりの痛さに気づいた。
目が痛いのは、涙を流し続けているからだ。
耳が痛いのは、その嘆きの咆哮が耳を劈くからだ。
そして喉が痛いのは、叫んでいたのが自分だったからだ。
自惚れた。強くなったと慢心していた。
守るべき彼らを、待っている家族がいると言っていた彼らを、死なせてしまった。
手にある彼らの亡骸から徐々に温もりが失われていく。それなのに、汗を流し、涙を流し、血を流す自分がなんとも滑稽で罪深く思えた。今更どれだけ絶望しても、もう彼らは還ってこない。
その時、大砲を撃ったかのような大きな音が聞えてきた。それは何度も地面を揺らし、近くで止まる。身体を震わしながら、押しつぶされるような重圧になんとか耐え、顔を上げた。
視界に収まりきらないほどの巨躯、人間なんか一握りで潰せそうな大きな手と足。顔を裂くような大きな口元、そこからはみ出る鋭い歯、獰猛な顔つきと、額の二本の角。
まさしく、鬼だ。
彼らの命を奪った、化け物。
化け物が見下ろす。殺そうとしているのか、様子を見ているのか。塗りつぶしたような目に感情は感じられない。
殺されてなるものか。
死ねば消えてしまう。彼らとの旅が、出会いが。死んだら一体誰がこの美しい思い出を覚えてくれるというのか。
忘れない。絶対に忘れてはいけない。
震える身体を叱咤し、刀を構えて、立ち上がった。
ああ、懐かしい――……
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