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前日譚:出会い
鏡歴四二二年。
アルフェルド王国。
最大大陸全土を領土に占める王国。魔物を退ける魔法道具を初めて開発したことで、大陸における絶対的優位と栄誉を誇ってきた超大国だ。
しかし、永劫と思われた王国の栄誉は突如奪われることとなる。
東諸島の魔物からの宣戦布告により、人間と魔物との戦争が始まったのだ。
魔物からの突然の侵略。
しかし、人間たちは困惑はしたものの恐れはしなかった。
魔物は生来、戦闘力は高いが利口ではなく、その戦い方は単調。そのため魔法道具さえあれば人間でも楽々と倒すことができたのだ。
だから、魔物は人間に勝つことはない。
そう思っていた人間たちは余裕綽々と戦争に赴いた。しかし魔物たちの侵攻は予想以上に早く、アルフェルド王国の領土三分の一を約三ヶ月で侵略されてしまった。
指揮を取っているのは、魔物たちを従える魔王と呼ばれる人物。
その存在は謎に包まれ、どんな力を持っているかも明らかになっておらず、強固な結界が張られた魔王城で指揮を取っていると言われている。
そんな魔王城に一人、大きな髭に紫色の帽子を被った小人が主人の帰りを待っていた。
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―――――――――
雨が降ってる。
小人の紫は、魔王城の二階廊下の窓ガラスから外の様子を背伸びして覗き込む。横殴りの雨が城に侵入しようと窓ガラスを激しく叩き鳴らし、雷が時々城内を灯した。おそらく今のこの城の光景は、魔王城という名にふさわしく、天気と相まって禍々しい雰囲気を醸し出しているのだろう。気になって外に出ようとは思わないが、外出中のこの城の主のことは少しだけ気になった。
予定より帰りが少し遅れている。
この雨のせいかもしれないが、今は人間との争いの最中だ。もしかしたら何か危険な目にあっているのではと心配してしまう。魔物の統率者なのだから注意するよう、もう少し言っとくべきだったか。
ガタン。
窓が揺れる音とは違う音が一階から聞こえて、紫は二階から玄関扉を見下ろした。ローブを着た人物が二人。この悪天候の中歩いてきたのか、二人ともずぶ濡れだ。
誰だと確認せずとも、一人はもう誰かわかっていた。出迎えるため、一階の玄関へと足を向ける。その姿を捉えた一人が顔を上げた。
「帰ったぞ、紫」
そう言って被っていたフードを脱ぎ、顔をさらした。
長い黒髪に、澄み切った空のような青い瞳、鼻筋はすっきり通っており、東洋風の顔をしながらも、華やかな美しさがある男性だ。しかし額にある立派な二本の角が、異形の象徴であり、ただの人間でないことがわかる。
紫は呆れたようにため息をつき、後ろに垂れ下がった紫色の三角帽子を揺らしながら近づいた。
「おかえりなさいませ、魔王様。今日の天気はお伝えしておりましたな? だから今日は早く帰った方がよいと助言したのです」
主である魔王に小言をぶつけながら、魔王の膝ぐらいまでしかない身長で、首を伸ばして見上げる。目が合った魔王は、その小言に苦笑いをしながら、濡れたローブを脱いだ。
その際落ちた水滴が、玄関ロビーの真紅の絨毯の色味をさらに深める。それを見てまた仕事が増えたと紫はため息をつきたくなった。今から皆の食事の準備を手伝おうと食堂に向かっているところだったが、水浸しになったこの玄関の掃除もしないといけなくなった。
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