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「小人……?」
うんざりしていると、ぼそりと呟かれた言葉に魔王の隣にいた人物を見た。
女の声だ。
魔王と同じようにローブを着ていたが、そのローブはボロボロでローブの端々にほつれや穴が見えた。じっと観察していると、その人物は気づいたようにフードを取って顔を見せる。
そこには美しい少女がいた。
小さくふわふわと膨らんだ短い黒髪で、頭を可愛らしいリボンで飾っている。髪と同じ黒曜石の瞳は愛らしく、雪のように白い肌に、林檎のように赤い小さな唇がとても印象的だ。
圧倒的な美貌に驚いていると、ぶっと噴き出したように笑う声が聞こえた。その声の主を睨みつける。
「……魔王様。ワシは忙しいのでここの掃除をお願いしても? 絨毯の掃除は手間ですぞ。頑張ってくだされ」
明らかに小馬鹿にしたような笑いで肩を震わせている魔王を一瞥して去ろうとすると、「待て待て」と笑いながらも声をかけて引き留めてきた。
「あーいや悪い。お前でもそんな顔をするんだな。いつも表情を変えないお前の小人らしい一面を見れた」
「やかましいですぞ、小僧」
したり顔で見下ろしてくる魔王に、下から見上げて睨みつけるしかできない自分の小人の身体が憎らしい。そこで女性を置いて話をしてることに気づき、はっとして魔王の隣の女性を見やると、女性は驚いたように目をぱちぱちと瞬かせていた。
年甲斐もなく見苦しいところを見せてしまった。
そんな自分を落ち着かせるように軽く咳払いをする。それを合図に魔王は女性に手を差し出した。
「今日から仲間になる女だ。紫、彼女の世話を頼めるか?」
当然のように頼んでくる魔王に、紫は呆れた視線で見返した。
「……魔王様。また拾ってきたのですか?」
「人間どもに追われてたんだ。仕方ないだろ?」
今度こそため息をついた。魔王はよくこうして人間に追われてる魔物を助けては仲間にしている。そのおかげで魔物たちの魔王への信頼と忠誠は深い物になっているが、もうそろそろ城の居住エリアもぱんぱんになってきた。城の管理をしているこっちの身にもなってほしいものだ。
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