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その後ろ姿を見送った後、紫はちらりと女性を伺う。目が合った彼女は困ったように微笑んだ。
「信用、されてないみたいだね。……まあ当然かな」
「……ご案内いたします」
紫は彼女の言葉に応えず頭を下げ、部屋を案内するためにロビーの階段を上る。彼女もその後に続いた。長い階段の後、城の最上階へとたどり着き、一番奥にある部屋の一つ隣の部屋を紫は「こちらです」と言って扉を開ける。彼女はゆっくりとした足取りで部屋に入り、全体を見渡した。暖色を中心とした色合いとゴールドを組み合わせた煌びやかな部屋で、棚や蝋燭、ソファやベッドなど必要な家具以外にも壁には大きいな絵や剣が飾られていた。
「素敵な部屋だけど、なんだか私一人なんてもったいないなぁ」
そう言いながら彼女は苦笑いを浮かべて紫に振り返る。紫も続いて部屋に入り、濡れていた彼女のローブを預かった。ローブの下に着ていた彼女の青と黄色のウエストラインのドレスがあらわになり、その鮮やかな色合いが彼女の美しさを際立たせていた。
なるほど。街で噂になるのも今なら頷ける。
そんなことを考えながら預かったローブを畳んでいると、まだローブは湿っていることに気づいた。これでは身体が冷えているのかもしれない。
紫は部屋に常備されている小型のコンロで、湯を沸かす。その間彼女は一人用のソファに恐る恐る腰かけ、紫に目を向けた。
「そういえば、名前なんていうの? 紫って呼ばれてたけど」
「ワシらに固有の名前はありませぬ」
「ワシら?」
紫の言葉に彼女は首を傾げる。紫はコンロから目を離し、彼女に目を向けた。
「七人いるのですよ。帽子の色が違うだけの小人の兄弟が。名前がないので、それぞれを帽子の色で呼んでおるのです」
紫は帽子の先が後ろに垂れた自分の紫色の帽子を摘まむ。
元々は森で暮らしていただけのただの小人。人と関わらなければ、他の魔物とも関わらない。名前に特別こだわりのない呑気な兄弟たちにとって、お互いを帽子の色で呼ぶだけで十分だった。
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