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そこでふとあることを思い出し、ポケットから小袋を取り出す。小袋の中にあるものを差し出し、彼女は目を瞠った。それは白い、柔らかそうな丸いお菓子だった。
「きびだんご……? ちょっと懐かしい」
「よくご存じで。仲間になった者たちには必ずこれを食べさすようにと魔王様が。不思議な団子でしてな。これを食べたものは遠くに離れていても魔王様と会話することができるのですよ」
「へえ。便利だね」
そう言って彼女は紫の手からきびだんごを一つ持ち上げ、そのまま口に放り込んだ。もぐもぐと口を動かしながら、彼女は頬を緩ませる。
「そうそう。呼び名の件ですが」
「ん?」
口直しに紅茶に飲もうとしていた彼女は、紫に話しかけられその動きを止めた。
「単純に『狼』と呼ばせていただきますね。羊を被った狼。あなたにこれほどのぴったりな呼び名はないかと」
彼女は少し目を瞠った後、おかしそうに笑いガオーっと両手を上げ獣の素振りをした。しかし紫が黙って真顔で見つめていると、しばらくしてまた顔を赤くして俯いた。
だから、恥ずかしければやらなければいいものを。
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