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狼を部屋に案内し、部屋も暖かくしたところで紫は彼女の部屋から出ていった。
とりあえずちゃんとした食事を彼女に持っていこう。仲間への紹介はその後でもいいだろう。そう考えながら紫は食堂に向かうため、階段を下りていったが、玄関まで着いたところで紫の目に嫌なものが飛び込んできた。
水浸しの玄関だ。
魔王と狼が立っていたその場所だけ、ぐっしょりと絨毯が濡れ、雨水を吸った玄関口の赤い絨毯がまるで血溜まりのように見えた。これが本当に血溜まりなのなら、ここで目をそらしても許されるというものを。呑気な兄弟に囲まれ苦労してきた長男ゆえに、こういう放ったらかしの状態はつい気になって放っておけないのだ。自分の性格が呪わしい。
「紫」
掃除を始めようと腕まくりをした瞬間、紫は呼ばれて振り向く。この掃除の原因となった人物を目にして、紫は睨みつけた。
「……何ですかな、魔王様」
主の魔王がいた。先ほどのローブ姿からラフなシャツ姿に着替えている。睨みつけられた魔王は心外だというように軽く肩をすくめて笑った。
「お前、俺の昨夜の飯は何か覚えているか?」
「はい? 昨夜は人間の夜営の様子を見に行かれて、食べなかったでしょう。そもそもあまり食事はされないではないですか」
唐突な質問に紫はさらに魔王を睨みつけた。
急に何なのだ。まさか、掃除の邪魔をするためにこんなくだらない質問をしたわけではあるまいな。
そんな疑心を抱いていると、魔王はふむ、と考えるように顎に手を添えた。
「本物のようだな。どうやら彼女に喰われてはいなかったようだ」
「……あぁ、なるほど」
その言葉に紫はやっと魔王の真意を読み取った。
姿と力を奪って殺すという狼が、紫に成り代わったのではないかと疑ったのだ。
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