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手放したくないと思った。自分が死んでしまうその時まで、側にいてほしいと願った。
それでも、別れなければならない。この魚桜は自分と違い、まだまだ長い年月を生きてゆくのだ。いつまでも老いぼれの我が儘に付き合わせてはいけない。
地面を見ると、あちこちから新芽が芽生えている。新たな命の始まりだ。この魚桜も、今日から地に根を伸ばして、立派な桜へと成長してゆくのだ。なればこそ、自分の方から別れを告げなければならない。
それは何でも話せる親友で、どこか手がかかる子供で、人知を越えた偉大な存在で。
「お別れだ」
涙を滲ませながら、ようやくその言葉を絞り出す。
その瞬間、魚桜の枝に変化が起こり始めた。
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