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祖父は物を大切に扱う人だった。「物には想いが宿る」が口癖で、月島はたびたび祖父が眼鏡や万年筆を磨いている姿を見た。
いつだったか、聞いてみたことがある。どれだけ大切に扱っても、いつかは壊れてしまうでしょうと。祖父はこう答えた。
そうだ。形ある物はいずれ壊れる。どんな物も永遠に壊れないということはない。一見頑丈そうに見えても、些細なことで壊れてしまうことがある。だから壊れてしまうその時まで、想いを込めて接するのが重要なんだ。物を大切にできないやつは、やがて人も大切にできなくなる。
祖父の葬式には、大勢の人が集まった。これも祖父の人徳なのだろう。涙をこぼす人々を見て、月島は思った。ああ、これが祖父の人生だったのだ、と。すべてを大事にしてきた彼だからこそ、ここまでの人々が集まってくれたのだ。祖父のために泣いてくれる人々を眺めていると、何やら胸が熱くなったのを覚えている。
「そういえば」
物思いにふけっていると、さらにこんなことも言っていたのを思い出す。
どうか、あの魚を救ってやってくれ。
あの時、祖父はどういう意味でそう伝えたのだろう。救う。月光魚は何か可哀想な存在なのだろうか。もしそうだとしても、自分は一体何をすればいいのだろうか。
月島は考えるのを止めた。とにかく、この素晴らしい月を堪能することにする。
それにしても、本当に見事な満月だ。じっと眺めていると、何だかあそこまで吸い込まれてしまいそうだ。平安貴族のように一句詠んでみたいものだが、気の利いた言い回しが思い浮かばなかった。
大人しく月見と洒落込んでいると、ふと、何かの異変を感じ取った。
物音がした訳ではない。でも何かを感じた。立ち上がって周囲を見回し、懐中電灯に指をかける。そこで気付いた。
「あ……!」
小さな月が、水面を悠然と泳いでいる。
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