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それ以来、月島は魚桜と共に人生を歩んできた。
魚桜は水を好むようで、どれだけ水をやっても根腐れすることなく、そのすべてを吸収した。月島は毎日その木に話しかけた。話しかけると喜ぶのが分かった。満月の夜になると、縁側に座って一緒に月光浴をした。
その友達には何でも話すことができた。どうしようもなく辛い時は、魚桜に悩みを聞いてもらった。人と桜。まったく違う存在ではあるけれど、だからこそ楽しかった。月島は魚桜の気持ちが分かったし、魚桜も同様だった。いつしかそれは、自分の命よりも大切な存在となっていた。
さらに年月が経ち、とうとう月島は死期を悟った。
死にゆくことに恐怖は感じなかった。それなりに生きたし、人生に悔いはない。ただ、この友達だけがどうにも気がかりだった。自分が死ねば、この木はひとりぼっちになってしまう。
それは最初から分かっていたことだ。そのことを若い頃から気にかけていた。だから地面に植え替えず、ずっと植木鉢の中で育ててきた。大樹になってしまえば、誰かに譲ることが困難になる。
月島は友人の三ツ木翔に、大事な桜のことを相談した。三ツ木は中学校の校長をしていた。元々月島もその中学出身だから、OBからの寄贈という形で融通を利かせてやれるということだった。
受け渡しの当日、月島は長年一緒に過ごしてきた友達と最後の会話をしていた。
「あの夜のことは今でも覚えてるよ。まさか月光の魚に出会うなんてな」
そっと幹に手を伸ばす。その腕は細く、枯れ木のように弱々しい。
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