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五月になっても田舎の夜はまだまだ冷え込む。和室の障子が冷たい風を受け、時折がたりと鬱陶しそうな音を立てた。何だか今夜は眠れない。月島満彦は布団の中で小さく寝返りを打ち、ふと父のことを思い出した。
満彦、いつか月光魚を探しなさい。
亡き祖父が言ったあの言葉。見事な満月の夜、少しの間だけ川に姿を見せるというその魚。あの時は単なるおとぎ話だと思っていた。しかし祖父は自分に嘘などついたことはない。二十になった今振り返ってみると、その月光魚とやらの話を語り出したのは、亡くなってしまう数週間前だった。
それを踏まえて考えてみると、どうしてもあの話が適当な冗談だったとは思えないのだ。もしかしたら彼は、自分の死期が近付いているのを分かっていたのかもしれない。どうして祖父は、死ぬ前になって孫にそんな話をしたのか……。
確か、今夜は満月だったはず。冷えるとはいえ、パーカーを羽織れば問題ないだろう。懐中電灯はある。そこまで考え、本気で出かけようとしている自分に気付いて呆れる。馬鹿か俺は、一体今何時だと思っているんだ。
組んだ両手を後頭部に回し、月島は鼻息をついて目を閉じた。さっさと眠ってしまおう。
でも、明日は土曜日だ。夜更かしする余裕は十二分にある。時刻は午前一時になろうとしていた。なかなか眠れないのだ。
月光魚。そいつはどんな魚なのだろう。何度も頭の中から考えを追い出そうとするものの、一度芽生えた好奇心は消えてくれない。祖父を思い出した今この夜、行動に移さなければいけない気がする。
そうだ、外を見てみよう。もし満月が見えていたら行く。曇っていたらどうしようもないから諦める。うん、それがいい。
そう自分を納得させ、月島はそっと障子を開ける。
「……参ったね」
夜空を煌々と照らす満月を見て、彼は深いため息をついた。
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