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そして私は今、マクドナルドにミミといる。
相手の女と話をつけようってわけだ。
いちおう頼んだドリンクに一切手を付けず、ミミは壁をにらんでいる。
ノンは面白がり過ぎという理由で、
ヨッシーは熱くなり過ぎという理由で、
サイゼリア待機中。
まさかの私が、ご指名を受けた。
智樹が階段から現れ、
その後ろから女が上がってきた。
…ん?
智樹は私たちの前に座ったが、一切目を合わせない。
相手の女はエラの張った、見るからに『猛者』という顔つき。
座るなり、ふんぞり返ってドリンクをすすり始めた。
沈黙。
誰もなにもしゃべらない。
まずは、ミミが口を開いた。
「私と智樹が付き合ってるの、知ってるよね!?」
敵方、無視。
ミミは負けずに繰り返した。
「知ってるくせに、何で彼女ヅラしてんの!?」
敵方は、ようやく物憂げに答えた。
「私は別にトモがどこの女と付き合おうが関係ないし」
「はあ!?バカじゃない!?何で彼女持ちの男に手ぇ出すわけ!?モテないから、ひとの男に手え出してんの!?」
「なにそれ。カンケーないし。そっちはそっちで仲良くやればいいじゃん」
「仲良くしてるのをアンタが邪魔してんでしょ!」
…あれ?
あれあれ?
「邪魔してないよ?私は私でトモとラブラブなだけだもん。別に彼女いるとか関係ないし」
・・・あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?
「彼女がいたら、普通付き合わないでしょ!」
「えー?意味わかんない。私はトモが好きってだけだし」
「意味わかんないじゃないでしょ!アンタが馬鹿なだけでしょ」
「『ネギ高』に言われても悔しくないけど」
「アンタだって『サギ女』じゃん!」
ネギ高は、我が三根木高校の蔑称。
周りがネギ畑だから。
サギ女は、鷺沼女子高校の蔑称。
キャバクラが主な就職先だから。
…あくまでもイメージなんだけどね。
違う違う。
そうじゃなくって。
私は、ずりずりソファを滑り落ちて、テーブルからほとんど顔しか出ていない状況になった。
ミミだけが熱い戦いを挑んでいる。
だけど、敵が相手にしないのでラチがあかない。
智樹はひたすら嵐が過ぎ去るのを待っている。
ようやく、私の妙な体勢に全員が気がついた。
ミミは、顔を上気させて言い放った。
「茜も何か言ってよ!」
そうですか。
では言わせて頂きます。
「私が見た『なかよし橋』の人は、この人じゃなかった…」
しーーーーーーーん
音が聞こえそうな
しーーーーーーーん
が訪れた。
突然、目の前にいたサギ女が凄い勢いで立ち上がった。
智樹の襟首を掴み、
「てめぇえええ!!!!何してんだよ!!」
ええっ!?
今までのクールさはどこに!?
完全に先手を取られた智樹が、テーブルに頭を打ち付けられている。
「どこの女だよ!コォラァッ」
「うあ!ちょっ…タンマッ!」
智樹の悲鳴が響く。
ミミまで、智樹を殴り始めた。
すっごい顔!
まさに鬼!
ドリンクが弾け飛び、私は慌てて飛び退いた。
サギ女は、さすが空手家。
的確に攻撃が決まる。
しかし「関係ないしー」って散々言っていたのに、何なんだろうね?
店中の客が、見せ物に釘付けだ。
感心してる場合じゃなくない!?
店員が来る前に、逃げねば!
学校に連絡されて、停学になったら
か…母さんにコロされる!!!!
号泣しながら殴り続けるミミを抱え込んで、
私は無理矢理に階段を降りた。
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