ローズマリー

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…忘れてた。 優斗のプロ·サファーデビュー最初の大会に行くの、すっかり忘れてた。 スマホの画面に、怒りスタンプが乱立しちゃってるよ…。 ~ごめんごめん用事があって、ホントごめん。 ~でも念は送ってたんだけど、届いたかな? と送ったら、すぐ返事が来た。 ~なにも届いてねーし! (絵)   ~なんだよ! (絵) (絵) ~せっかく呼んでやったのに (絵) ~もうお前なんか! (絵) (絵) (絵) 聞けば優斗は、3位だったらしい。 打ち上げを今年新築した、房総の実家でやるという。 お詫びと言うんではないけど、家に泊りがけでお邪魔することになった。   それを聞くと、うちの母さんは勝手にテンションを上げ始めて、 「ぼーっとしてないで、ちゃんと行儀良くしなさいよ!なんせ、アンタの将来の家族・・・」 「ぜんっっぜん!そういうんじゃないから!」 そして今、私は優斗の実家にいる。 いやー。外国か、ここは。 まるで地中海のようだ。 房総とは思えない。 お洒落なインテリア、 ベリーショートの似合うママ、 オシャレメガネのパパ。 そして・・・  「俺の皿、どこだよ?」 「優斗、グラスまわしてー」 「レモン掛けていーい?」 「うわっ。ボロボロこぼしてるし」 「踏んでる!それ、踏んでるって!」 まさかの5人兄弟。 しかも全員、男。 優斗は次男だそうだ。 あのスラリとした美人ママが、こんなに産みまくってるなんて想像もつかない。 それにサーファー仲間と、 近隣住民と、 それらの彼女などが加わって大変な騒ぎ。 「ママぁ?私、手伝うー」 と、言っているのは優斗の女友達・マナカだ。 スキのない身なり。 モデルだってさ。 「キレイですネー」 棒読みでお世辞を言ったら、 「私ぃ、自分のこと全然綺麗だって思えないんだぁ」 さも先を聞いてくれと言わんばかりのセリフ。 「はあ・・・?」 「私のお姉ちゃんはぁ、ミスユニバース・ジャパンのファイナリストなのね」 「ヘーエ、スバらしいジャナイデスカ・・・」 「まあ、私もいずれは・・・事務所がやっぱりね、いろいろ言ってくるから」 「ガンバッテクダサイ」 食事は、何もかも美味しかった。 そしてオシャレ。 ジャガイモのスープに、ローズマリーなんて入っちゃってる。 ローズマリーの生け垣は、この家によく似合う。 他の野菜もママとパパが、無農薬で育てているらしい。 …みんな、この家に負けずオシャレ。 優斗だって、バカだって分かってるけどオシャレに見える。 私って、つくづく冴えない人間だ。 エルフの村に迷い込んだドワーフだ。 今すぐ地元に帰りたい。 あの地味で堅実で面白くも何ともない土地に今すぐ帰りたい。 ボク、帰りたい! 帰りたいヨ!ドラえもん! 私は、ガツガツとご馳走を平らげた。 優斗と喋ろうにもマナカが、がっちり掴んで離さないし、 サーフィンの話はさっぱり分からない。 だから、食べよう。 食べるしかない。 優斗は、自慢げに今大会の写真を回してくる。 礼儀上それを見た。 「うんうん、すごいすごい」 波の上を板一枚で、すごいよなー。 ホントすごい美味しい。 初めて食べるものばっかり。 コレも…食べたことない。 「このオムレツ、超美味しい!」 思わず口にした。 「それ、うちの鶏が産んだ卵なのよ」 優斗のママが教えてくれる。 「やっぱり、食事って大事じゃないですかー。私も添加物は、なるべく取らないようにしてる。うん」 マナカが口を挟む。 まったくその通りなんだけど、 こいつが言うと胡散臭い。 ていうか、マナカはスープをまったく飲んでいない。 冷製スープなんだから、冷たいうちに飲めよ!と気が気じゃない。 すると、唐突にマナカが嫌味を言った。 「茜ちゃんの食べ方って、ヒヨコみたーい。カワイイー」 「ありがとう。ミス・メンドリ」 一瞬、テーブルが静まりかえり、次の瞬間大爆笑が起こった。 マナカは、みんなに調子を合わせて、無理やり口だけで笑っている。 「こいつ、面白いでしょー?」   と、勝手に優斗が自慢する。 ちょっと待てよ。 考えてみると、優斗って一体私の何なんだろう? 笑いでさざめく食卓の中で、私はそのことを改めて考えてみた。 自分の心を覗いて、優斗のいる辺りを落ち着いて見つめてみる。 心の中に、いろんなカンペが出てきた。 『おバカ』 『天パ』 『サーファー』 『キレイめのゴリラ』 それを全部取り除いたら、 『おとうと的なもの』 と、そこには書かれていた。
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