ミント

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草むしりなんて、久しぶりにやった。 …この憎たらしいほど、生い茂ってる様子ときたらどうだ。 根が張っちゃって全然抜けない。 そもそもこのミントは、 向かいに住んでいるナカタ家が植えていたはず。 あの西洋かぶれめ… それがいつの間に我が家の駐車場に侵入して、 こうやって私が草取りに励む羽目になっている。 一応、ハーブなんだから何かの役には立つかなぁと思って調べてみた。 <ミント> 強い殺菌力とメントール系の香りが特徴。 ハーブティーにして飲むと、すっきりリフレッシュ効果が得られるよ。 苗はとっても繁殖力が強いから、植える際は充分な注意が必要! 私が今抜いているのがペパーミント、 敷地の裏手に生えているのがアップルミント。 …だから?  言っておくけど、このミント。 近所中の犬と猫がおしっこ引っかけてるから。 うちの車に何度も踏みつけにされてるから。 ハーブティ? ありえねぇ。 あーあ… 草取りなんかする予定じゃなかったのに。 寺西さんと遊びに行くはずだったのに。 寺西さんは、 ノンの知り合いの知り合いの社会人。 当たり前だけど高校には絶対いないタイプ。 例えば、一緒にご飯を食べに行ったりするでしょ? 私の飲み物が無くなると、すかさず「何か飲む?」って聞いてくれる。 おしぼりが汚れていたら、すぐに新しいものを頼んでくれる。 大人だから当然なのかもしれないけど、すごくスマートなんだよね。 その寺西さんが 「横浜にドライブ行かない?」 って誘ってくれた。 私はテンション上がりまくって、 雄叫びを上げながら床をゴロゴロと2回転して壁にぶち当たり、 それでも嬉しくてまたゴロゴロ2回転した。 それからクローゼットを全開にして、 全部の服を引っ張り出して、 子供っぽく見えないほうが良いのか、 見えた方が良いのか、 着ては脱ぎ、脱いでは着て、 下着の色まで考えた。 いや、もちろん。 いやいや、もちろん。 ヤろうと思ってるわけじゃないよ? ヤろうと思ってるわけじゃないけど、 気合いが入っちゃうの分かるでしょ? ところがだよ。 昨日の夜になって、 母さんが強張った顔で、 「ちょっとここに来なさい」 急に何かと思ったら、 「あんた、社会人と付き合ってるでしょ」 絶句。 血の気が引いた。 どうにかこうにか、 「あの人はノンの友達!一緒に遊んでいるだけで付き合ってはいない」 ということは説明した。 けど母さんはドスのきいた声で、 「嘘つくんじゃない。 アンタがサラリーマンの車に乗って津田沼ウロウロしてたって、 ナカタさんが言ってたんだから」 ナカタ…! ナカタのオバンめ! 「付き合ってないって!ウロウロしてたって…別に友達だもん!」 「あんたねえ!社会人の車に乗って繁華街をうろついてたら、何を言われても仕方ないでしょ!」 「はいはい!なんとでも言えばいいでしょ!付き合ってないもんはないんだから!」 「その人は何なの? いいオトナが対等に同年代のオンナと付き合えないで、 アンタみたいなのを連れ回してるなんて、気持ちが悪いよ」 もう「はあ!?」って感じ。 寺西さんのことなんて、全然知らないでよくそんなことが言えるよね!? 寺西さんの方が、 グラビア見ながら、 「やっぱお椀型?」 とか言ってる同年代より、よっぽど安全だろ!! 母さんは、私のすることが何でも気に入らない。 きっと、私が連れてきた彼氏が自分の大好きな韓流スターでも 「国際結婚は駄目!」 とか 「仕事が不安定!」 とか言い出すよ! 今日、寺西さんとデートなのも母さんは薄々感づいていたようで、 「勉強しないなら、せめて家の手伝いをしなさい!」 「もう約束しちゃったんだから、絶対に行く!」 「そんなこと言って、この間も何もやらないで逃げたじゃないかあっ!!!どうしても行くって言うなら、お父さんから相手に一言いってもらうからなあ!!」 と鬼みたいな顔をして一歩も譲らず、 私は泣きそうになりながら寺西さんに電話をして、今日のデートを断った。 寺西さんは、 「あ、いいよいいよ」 と言ってくれた。 ちょっと、あっけないくらいだった。 力任せにミントを引っ張ると、 飛び散った土と砂利が顔にぶつかってきた。 ああ、ムカつく!!   よりによってこんな時に、 例のナカタのオバンが出て来た。 「ずいぶん熱心にやってる。うう~ん、えらいわ~。うちの子もそれくらいやってくれるといいんだけど・・・」 オバンは、わざとらしくため息をつき、 「でもね。うう~ん、来年は大学受験だし。うちの子、国立狙ってるでしょ?大変みた~い。茜ちゃんも頑張って。ボンヌ ウィー ケンド!」 夜、寺西さんにメールしてみたけど、返事はこなかった。
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