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「雪那は……歴史を変える為に動いていたんだよね」
十和が言うと、雪那は「そうだよ」と返した。
「俺にとっては、この世界で生きてこれたのは三成様のお陰だから。
まだ高校生の世間知らずだった俺に、
この時代の常識や知識を沢山教えてくれて、大人にしてくれた。
そんな親のような、兄のような存在が処刑されるって分かっていて、何もせずにはいられない。
俺一人の力で出来ることが限られているにしても、最期まで抗いたいと思っている」
「……私も三成様に死んで欲しくない」
十和は雪那と一緒に空を見上げて言った。
「雪那に江戸城を連れ出してもらってからの毎日が、生きてきた中で一番心地良くて、幸せな時間だった。
これからも、雪那や皆さんと過ごせる毎日が続いていって欲しい。
——だから、私も雪那と一緒に歴史を変えたい」
十和が決意を固めた顔で告げると、
雪那は急に小さく噴き出した。
「えっ、何?!」
「……いや。はは……。
俺達、自分のエゴを通すために歴史を変えようとしているんだなって。
もしそれで歴史を塗り替えてしまえたら、
それこそ歴史上に名前を残すくらいの大罪人になるかもな、って」
「……ふふ。そう考えたら、こんな風に明るく話すことでもないよね」
十和が笑い返すと、雪那は真剣な眼差しで言った。
「大罪人、なんて言ってみたけれど——
正義なんて人の価値観によって変わるものだし、こんなに定義の曖昧なものってないと思う。
俺達の知る歴史だって、勝者によって作り上げられた
何重ものフィルターが掛かった上での歴史だろうし。
戦って勝って、誰かを犠牲にして成り上がることにどんな大義があるっていうのか。
……どうせ正当性なんて無いんだから、
俺は自分の守りたい人の為に戦いたい」
「——そっか。
それが雪那の考え方なんだね。
私は……少し違うかな」
十和は雪那の考えをしっかりと解釈した上で、呟くように言った。
「大切な人を守りたいって気持ちは私も同じ。
だけどその為に誰かを傷つけるのは仕方のないことだとは割り切れない。
どうにかして戦わなくても済む道を探したいと思ってしまう。
……私は徳川家康と戦わずして済むなら
三成様の命を守る為に、豊臣の天下を徳川に渡してもいいんじゃないかな……って思う」
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