カイゼル髭の男

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二人は意気投合し、近場の公園を散策しながら、互いの事を語り合う。と、男女の出会いに見せかけた、ランデブーで、ナタリーは、依頼の内容を知らされる。 今回は、公国の皇太子の花嫁役。 式は挙げたが、花嫁は、男の元へ、逃げた。逃亡中の花嫁を連れ戻す間、皇太子妃の身代わりを勤める。それが、ナタリーに与えられたものだった。 「あらまっ、皇太子の相手ならぱ、それなりの家柄の娘でしょ?また、大胆な事をしでかしたわね」 「まあ、それで、君も、食って行けるのだから、良い話じゃあないか」 カイゼル髭は、いやらしいほど、空々しく口角をあげると、ナタリーを見る。 詳細は、ここまで、ということか。あとは、国家機密という、ナタリー含め、庶民は踏み込む事を許されない事柄があるのだろう。 そう、高級婦人服の仕立て屋なるものは、単なる、隠れ蓑。ナタリーの本当の顔は、王国貴族相手の、困り事処理なのだった。 と、言ってしまえば、実にお気楽なものに写るが、時は、19世紀前半、ここ、欧州(ヨーロッパ)では、王国、公国、侯国等々、名も知らぬような小国が、あまた存在していた。そして、イタリア半島を筆頭に、覇権を手中にする主要大国の餌食とならぬよう、戦々恐々とした時が流れていた。 いつ、どこで、領土拡充の為に、一発触発の事態が起こるか、わからない。 その為、小国側も、スキャンダルや、些細な行き違いを機に、大国につけこまれる事を恐れていた。 例えば、招待を受けた舞踏会に、妃が体調不良で主席出来ない。無論、長年、臥せっている妃を狙っての招待という、陰謀なのだが、ここで、しくじってしまうと、国を取られる。 そこで、体面維持という名目で、ナタリーへ代行妃の声がかかるのだ。 依頼を受けた、ナタリーは、(きさき)の顔をして、王の隣に寄り添う──、とは、これまた、表向きの話で、そのまま王に気に入られ、愛人となって、国の内側から崩して行く。 すべては、前にいる、カイゼル髭の指示だった。 「さて、傾国のナタリーの腕前を、見せて頂こうか」 この一言で、ナタリーの諜報員(スパイ)並みの仕事が始まるのだ。
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