吞兵衛、夏凛の酔いどれ探偵、捕り物控  弍 夏凛誘拐される

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「どうして、この子がこんな怪我を 負ったのですか」 「私を、助けに来てくれたんです。 たった一人で、それで犯人と格闘した 挙句、刺されてしまって、 すみません、みんな私が悪いんです。 缶助君がこんなになったのは、 私のせいなんです! すみませんでした! 私が代わりになればよかった」 「お嬢さん、それは違います。この子は 貴女を守りたかったんです、 自分の命に代えてまでも・・・ ですから、そんなこと言わないでください、 こいつは、今まで生きて来て本当に 守りたい人が見つかったんでしょう、 それが貴女だったんです、 私は、こいつを褒めてあげたい、 「良くやった」とね。 連休にうちに帰って来た時の、 缶助は今までにないくらい 明るく、やる気に満ちてました。 あなたの事も散々聞かされました。 美人でいい人だとね・・・ 万が一、缶助にもしものことが あったとしても貴女に責任などないですから、 こいつが男として やったことなんですから・・・・・・ 褒めてやって下さい、それだけで こいつは喜びます・・・ しかし、親としては生きて欲しい、 生き延びて欲しい 目を覚ました時、「良くやった」と ほめてあげたいんです」 缶助のお父さんは私の顔を見ながら、涙を 拭っていた。 母親と、姉は私とは目を合わさずに 父親に肩を抱かれながら部屋を出て行った。 集中治療室の中で横たわる缶助、 今すぐにでも抱きしめて「ありがとう」 と言いたい。 「ばかだよお前は」と言って頬を なでてやりたい。 「缶助、ごめんね、私のせいでこんなに なってしまって、許してね、 私が勝手に動いてしまった為 こんなことに・・・ 御免ね、本当に御免!    缶助!お願いだから 元気になって頂戴・・・ お願いだから・・・・・・」 父さんが、缶助の両親と姉の所に行き、 私の代わりに謝罪している。 かっちゃんの事ばかり 気にしていて、缶助の事など 忘れていた・・・ だけど、彼は私の事を必死になって 探してくれていた 身勝手な私・・・バカな私・・・一端(いっぱし)の探偵気取りで バカみたい・・・一番身近な人を 傷つけてしまった。 病室で缶助の顔を見ながら涙ぐんでいた時 私の母が着替えを持って病院にきてくれた。 自分の事を改めてみると身体中、 缶助の血で赤く染まっていた。 だけど、それを着替える気にはならなかった。 この洋服についた缶助の血液、 今の私と彼とが唯一、つながっている物 着替えたら、着替えてしまったら 缶助が帰ってこない気がして、 着替えることができなかった。 「缶助、お願いだから元気に         なって・・・・・・」 その晩は、私の父、母、缶助のご両親と姉で 缶助のそばにいた。 私が着替えずにそのままの姿でいたら、 缶助の姉がそばに来て、 「あなた、いつまで、そのままの 格好でいるの!着替えて来てくれないかしら、 いつまで悲劇のヒロインでいるつもりなの!」 「私は、そんなつもりじゃないです、          ただ・・・」 そう言いかけて、立ち上がったところで、 缶助の姉が私のことを突き飛ばした、 両方の親が、私と缶助の姉を離す。 そんな事をされたのは、生まれて初めて だったけど不思議と怒りとかは湧いてこない 実際に缶助を、こんなにしたのは、私の 責任、缶助の姉には何もいえなかった。 父親に肩を抱かれ、父親の胸に 泣き伏している姉の姿を見て、 もし私があの人の立場だったら 同じことをしたかもしれない。 缶助の母親が私の両親に謝っていた。 父も母も、お姉さんの「気持ちは解る」 と言って逆に缶助の姉に謝っていた。 母が「さあ着替えにいきましょう」と私を 椅子から抱き起し、シャワー室へと 連れて行く。 シャワー室で身を綺麗にして、 着替え終わりまた缶助の元へといく。 私が部屋に入ると、缶助の姉がそばに来て 「さっきは、ごめんなさい、 私もどうかしてました。 突き飛ばしたりして本当にごめんなさい」 缶助の姉が私の目の前に来て頭を 下げて謝っていた。 「いいんです、もしも立場が逆だったら 私も同じことをしていたかもしれません、 どうか、頭を上げてください」
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