吞兵衛、夏凛の酔いどれ探偵、捕り物控  弍 夏凛誘拐される

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缶助が目を覚さない、 あれから、3週間が過ぎた。 私もお母さんも、次第に心配になってくる。 医師の言うことでは、一時的に 大量出血したのが原因ではないか と言っているが、 私もお母さんも口には出したくないことが 脳裏をかすめる。 「植物状態」間違っても口には出せない と言うか、そんなことあるはずがない 缶助は、絶対に目を覚ましてくれる 長い間寝たきりになると 筋肉が急速に衰える。下手をすると 関節などが曲がらなくなってしまう こともあるらしい、私とお母さんで 交代で缶助の腕や足などの関節の曲げ伸ばし をする、指も例外ではない。 曲げたり伸ばしたりを繰り返す。 話しかけるのも有効なことらしい 曲げ伸ばしをしてる最中に 色々話しかける。 缶助が、一番気に入ってる NSXの事を話す。 「真っ赤なNSXが待ってるぞ 早く運転して欲しいって言ってるぞ だから、早く目を覚ませ!」 と・・・ ある日、缶助の身体を拭いている時だった。 パジャマのボタンを全部はずし 上半身を拭きながら話しかけていると、 缶助が薄目を開けて、 私を見ているではないか! 「缶助!私がわかるのか!?」 と大きな声で聞いた。 すると、缶助は小さく頷いてくれた。 すぐにお母さんを呼びに行く 「お母さん!!缶助が目を覚ましました! 目を覚ましたんですよ!」 洗濯室まで、泣きながら走っていく 「お母さん!缶助が目を覚ましました! 私に返事をしてくれました」 2人で、缶助の元へ急ぐ。 部屋に入ると、缶助が私と母親を 見ていた。 「缶助!!!」 2人同時に缶助に抱きつく 「母ちゃん、顔が痛いよ、 夏凛さん、そこ痛いです」 か細い声で訴えた。 私が缶助に抱きついていたところは 傷口の真上だった。 「あっ!!ごめん、ごめん!」 すぐに離れてナースコールを押した。 ナースがすぐに来てくれて医師を 呼びに行った。 医師が来て、缶助の目にライトを当てたり 外したりした後、私達を見て 一言、「復活です」と言った。 その時私の気持ちの中で、 答えが決まった。 「私は、この先ずっと缶助と      一緒にいる、一緒にいたい」 答えが出た。 明日で丁度、あの日から1ヶ月 返事を言う日だ。 「・・・かっちゃん!さようなら」 心の中でつぶやいた。 翌日、かっちゃんに電話をする。 私の思いを告げる。 「ごめんなさい、私、アメリカには 行きません」 そう伝えると、かっちゃんは 私の所へ来ると言う。 だがそれも、断った。 気持ちが揺らいでしまうとか そう言うことではない。 このまま終わらせるのがいいと 思ったからだ、かっちゃんには 「ごめんね、一緒にいけなくて でも、私は缶助のそばに居たいの かっちゃん、本当にごめんね、そして 「ありがとう」・・・      それじゃあ、元気でね」 かっちゃんは無言だった。 最後の電話を切った。 ふと、私って冷たい女なのかな なんて思ってしまった。 でも、これからは、私が缶助を 護る番だから・・・ 病室に戻り、まだ自力では動けない 缶助の関節を優しくほぐしてあげた。 翌日、缶助の世話をしている時、 病室の扉が開いた。 かっちゃんがそこに立っていた。 私の方に歩み寄る。 「缶助君!意識が戻ったんだね 良かった、大変だったね、でも意識が 戻って本当によかった・・・ 夏凛・・・ちょっと話しいいかな」 「はい、屋上でまっていて、お母さんに 言ってくるから」 かっちゃんは、屋上に上がって行った。 私は、少し気まずい思いをしながら 缶助の母親に少し時間を貰い 屋上に、重い足取りで向かう。 屋上に着くと、かっちゃんは 扉のすぐ横で私を待っていた。 「夏凛、考えはかわらないか? 僕は、どうしても君の事が諦めきれなくて こうして、また君に会いに来てしまった。 もう一度、言わせてくれ、  僕と結婚してくれ、そしてアメリカへ 一緒に来てくれないか?」 「・・・かっちゃんの気持ちは本当に 有難いと思ってる、だけど缶助には、 私が必要なの、私にも缶助が必要なの あなたは、1人でも充分やっていける人 ごめんね、かっちゃん。 私の事は、もう忘れて・・・」 「・・・僕は、そんなに強い男じゃ ないぜ・・・でも、ハッキリ言われて 少しは、踏ん切りがついたかな・・・ でも・・・辛いぜ、正直言って 嫌われて、もう会いたくないって 言われた方がまだ、踏ん切りが 着くかも・・・でも・・・ しょうがないか・・・・・・ 缶助君に挨拶していくよ、 元気でな、夏凛!幸せになれよ」 かっちゃんは勢いよく階段を降りて行った。 私は、かっちゃんにひどい事を したのかも知れない、でもどうにもならない 缶助に対するこの気持ちは・・・ 少し、時間を置いて 病室に戻った。かっちゃんはもういなかった そこには、缶助の横にお母さんがいるだけ。 お母さんさんが、部屋を出ていく、その時 私を呼んだ。 後をついていくと給湯室に入り私を見つめて 「夏凛さん、今ならまだ間に合うわよ 缶助の事はもう大丈夫だから、あなたの 気持ちに正直になって、ここまで 缶助の面倒を見てもらっただけで 充分よ。自分に正直になって」 何故か目に涙が溜まってきた。 でも、かっちゃんに対する未練の涙ではない やっぱり、母親というものは何でも わかっているんだなと思ったら涙が 出てきたのだった。 「お母さん、お気持ちはありがとうございます でも、私は自分の今の気持ちに 嘘はついてません、缶助君とこのまま 仕事を続けたいだけです。 それに、彼には私が必要ですから、 私にも彼が必要ですから」 そう言ってから、自分の顔が熱くなるのを 感じて、顔を手で覆ってしまった。 「缶助は、幸せな子です、 あなたにそこまで言ってもらって ありがとう、夏凛さん!」 「そんな、お母さん私の方こそ 缶助君には感謝しています、 これからも、よろしくお願いします」
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