7人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「ねーブクちゃん。困った老人でちゅねー」と水槽の中を悠々と泳いでいるブクちゃんにいった。ブクちゃんは口をパクパクしながら私の顔の前をいったりきたりしている。後ろで「飼い主がこれじゃ仕方がない、か」と呟いていたが無視した。どうせ注意したって今後も言い続けられるのだから。
「何がいいんだか」
「癒されるじゃないですか! 河西さんもどうですか? すごく癒されますよ~」
「遠慮しておくよ、そんなに暇じゃないんでな」
「何言ってるんですか、いつも『仕事なんて人生の暇つぶしだ』って言ってるクセに仕事しかしてない。ってことは暇じゃないですか絶対」
「仕事以上につまらないことで潰しちゃいけないんだよ、暇は」
「だからやってるんですよ、ブクちゃんのお世話を!」
「仕事しかしてないお前がいうと説得力あるな」
「そりゃどうも」
少し離れたデスクから「八椰さん」と呼ばれる。
「伊凪さんからです」
「死んだって言っておいて」
「あ、もしもし伊凪さん、八椰さんは死にました……え、死因ですか? フグの毒です」
あながちありそうな死因だった。その後も中々終話しないのを見かねて、受けてくれた子から電話をとり、ガチャっと切った。
「いいんですか?」
「うん、だってろくなことじゃないだろうし」
あいつは昔から厄介だけ電話で言ってくるのだ。何年もの付き合いだと遠慮もなくなってくる。伊凪とは兄妹みたいだと河西さんから言わるのはいいとして、未だにあいつが兄なんて認めない。
ピコン、とメールの受信音が鳴った。送り主は『伊凪彗』、標題は『新人の履歴書送付』となっていた。やっぱり面倒案件だ。
最初のコメントを投稿しよう!