墓参り

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墓参り

二月二十七日。この日は何がなんでも休暇を取る。そして朝目覚ましよりも早く起き、シャワーを浴びて身なりを整えて黒のスーツに革靴を履く。柄にもなく髪型もがっちり固めて。ふぅっと息を吐いてから玄関のドアを開けた。 外は生憎の雨。違う、毎年雨だ。 いつもの赤い傘を差してバスと電車を乗り継ぎある場所へと向かう。県を跨ぎ低層階の建物がチラホラ見えて来てやっと下車して今度はタクシーに。 「○○墓地まで。」 交通手段のない場所へはタクシーが一番だ。途中花屋で仏花の一番いいやつを買った。 「ありがとうございました。」 支払いを済ませ、またタクシーに乗り込み目的地へ。墓地のロータリーで降り、傘を広げ花束を抱えゆっくり歩き出す。気合いを入れて家を出た癖に足取りが重いのは毎年のことだ。会いたいようで会いたくない。現実を受け入れなければならないのに何年経っても俺は…。 雨がパンツの裾を汚し靴を濡らしても苦にはならない。慣れたもんだ。漸く花を手向ける場所に到着した。 墓石には『町屋家之墓』 側面には『梨佳 享年三十一歳』 俺のバディーだった人。 「元気だったか?今年も来たぞ。」 墓石の前に花束を起き、手を合わせ祈りを捧げる。雨だから線香はあげられない。心の中で町屋に話しかけてみる。返事はないし、ただの独り言にしかならない。 「……、なぁ俺、」 目を開けて墓石を見ると苦しく目頭が熱くなった。 「もう少し、早く、どうして、俺、…」 後悔とはいつ晴れるのだろう。心の棘はいつ抜けるのだろう。 「梨佳…!」 溢れる涙が頬を伝い地面に落ちる。傘の柄を力一杯握り絞めながら俺は声をあげて泣いた。 二月二十七日は町屋の誕生日。初めて俺たちがデートをした日で結ばれた日。そして、三年前の三月四日、町屋は死んだ。守れなかった俺は命日に顔を出すなんて出来なかった。葬式の時に親族に引き留められた。罵声も浴びた。参列しないでくれと…。だからせめて町屋の誕生日には会いに来ようと毎年足を運んでいる。毎年雨で、毎年町屋の赤い傘で来て、そして俺は泣くんだ。三年経っても泣くんだ。
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