過去

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いつも隣に居るのが当たり前で。それは警察学校に入った時からずっとそうだった。名前は知っていたし、ある時から互いに切磋琢磨して成績を競いあっていた。配属先が同じだった時はこれは何かの因縁か?と思わず苦笑いを浮かべる程だった。 共に過ごし、共に泣き、笑い、先輩からは怒られへこんだり。これから先もずっとそうなんだって何も不安になることなんてなかったんだ。 「危ない橋ばっかり渡りやがって!」 「木城だけじゃ尻尾掴めなかったくせに?」 「屁理屈はいいんだよ!俺はただお前のだな、」 「あ、」 「?」 「来たっ!」 こうしていつも被疑者捕獲に成功してお前たちのやり方は危ないと怒られて。張り込みが成功したのは間違いなく町屋のお陰だった。いつもそうだ。情報収集が得意で上手く人を釣る。…身体だって張ってた。それも知ってた。何度止めろと伝えても止めなかった。 「私のこんな貧相な身体なんて誰も興味ないから。」 「そういう問題じゃないだろ?!」 「終わり良ければそれで良し!」 「あのなぁー」 いつもそう言って笑ってた。 警察学校時代に俺は一度だけ町屋が泣いて苦しんでる姿を見たことがある。 「何で私はこんな貧相なんだろ。誰だよ、人間皆平等なんて言った奴!男と女で何でこんなに違うの?どんなに頑張って努力して筋トレしても!筋肉の付き方が違うから…木城みたいな身体にはなれない!何で?どうして?ねぇ、私は、私は!!」 町屋は、 『男に生まれたかった。』 そう言ってた。 張り込み中の時だった。ふと、車の中でパンを食べながら学校時代の話しになり… 「背丈は173cmあるんだから十分じゃないか?」 そう言ってみたけど駄目なんだと。 「それじゃ見合わないよ。」 俺は186cmだから守れないんだと。 「は?お前女だろ?何で俺はお前に守られなきゃなんないの?」 「木城は真っ直ぐ直球ドストレートだからバックがガラ空きなんだよね。よくボケてるし。頭の回転が良くて体格にも恵まれてるのにさー。上官から目をつけられても出世コースじゃないのわかるわー。」 「うるせぇ!俺は現場で働きたかったの!」 「はいはい。」 これは俺を指導してくれた教官が後に言ってたんだけど…町屋は霞ヶ関行きだったらしい。その話を蹴ってうちの部署に配属になった。 『ほっとけない奴がいるから。』 普通はこんな話通らない。町屋の父は国交省のお役人さんだから、きっと娘の我が儘をあの手この手を使って叶えてやったんだろう。バカだな…本当に。 バディーを組んでもう8年目。そろそろ異動もあるよなきっとって互いに話しをしていた時期だった。ヤクザの抗争と薬物、麻取と手を組んで同時に追っていた時だった。神経を使い過ぎてたんだろう。激務を終え明日は久々の休日だなんて浮き足立って署を出た。 「帰って掃除して溜まった洗濯物を処理して…はぁー、それだけで1日終わっちゃうもの。やってらんないよ。」 「つまんないよな。遊ぶ気にもならないし。」 実際に疲れを癒すとかいってゴロゴロして終わるしなぁ。 「キシローさ…」 「ん?」 「私とどっか行こうか。」 空気の澄んだ冬空に星がやけに綺麗に光ってて。何でそんなにキラキラして見えたのか、それは町屋がニッコリ満面の笑みで俺を見ていたからだった。 「よし!思いっきり遊ぶぞ!!」 胸の高鳴りを隠すかのように、はぐらかしてそうやって押し留め蓋をして。このままがいい。このままがいいに決まってる、そう思ってた。
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