龍河国呪術物語~最恐の呪術師~

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 まさかここまで綺麗に治るとは思わず、蒼礼もびっくりしてしまうのだった。 「奏刃(そうじん)様」 「ああ、気づいている」  部下の呼びかけに、長い髪を鬱陶しそうに掻き上げた奏刃は大きく頷いた。知っている波動を二回も感知するとは、何かあったのだろう。そしてそれは、まだ奏翼が力を持っていることを意味している。  奏刃。その名が示す通り、この長い黒髪を持つ男装の美女は奏呪の一人だ。それも、奏翼と互角とされるほどの強者だ。年齢も奏翼と同じ、今年で二十七。  奏翼がいなくなった後、奏呪を纏めるのはこの奏刃だ。そして、今いるのは宮廷の中、奏呪が詰める場所だ。それは皇帝のすぐ近くであり、宮廷の内外で起こることを総て知ることが出来る場所でもある。 「探せ。そして捕らえよ。必ず生きて使える状態でな」  奏刃は控える部下にそう命じた。それからにやりと笑うと 「奏翼。この十年で逃げ切ったと思っていたようだが、我らは諦めておらぬぞ」  楽しげに呟いたのだった。  蒼礼の行方を探っているのは、何も奏呪の連中だけではなかった。
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