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鈴華の言葉に、蒼礼は何とも言えない顔をしてしまう。
(殺さないのは戦が終わったからだ。この身に宿る呪いに気づいたからだ)
だが、それは蒼礼個人の問題であり、奏呪にすら言えない内容だ。蒼礼はやれやれと首を振ると、札を作るべく小屋の中に入った。鈴華もついて来る。
「失敗しても知らないからな」
治癒を意識しながら札を書き上げつつ、一度も使ったことのない技がそう簡単に成功するはずがないと注意する。
「大丈夫よ。あなたは奏翼、天才だもん」
しかし、鈴華はやはり揺るがなかった。こうなると、蒼礼も覚悟を決めるしかない。
「俺の名は蒼礼だ。もう奏呪じゃない裏切り者だ。だから、奏翼でもない」
鈴華に向き直り、蒼礼はそう告げた。それに一瞬きょとんとした鈴華だが、意味を悟ると笑顔になった。
「解ったわ、蒼礼」
「では」
蒼礼は書き上げた札を鈴華の擦り傷に貼り付ける。そして口の中で小さく呪を唱えると、ふうっと息を吹きかけた。
「あっ」
途端にそこが淡く輝き、札が消え、腕の傷も綺麗さっぱり消えていた。
「成功ね」
「そう、だな」
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