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「虎の娘を見張っていたところ、面白いものを見つけました」
内廷の東側、次の皇帝たる人がいる場所で、そんな報告がなされている。
「ほう。北に向っていたということだが」
面白くない顔で書類を見ていた東宮、龍聡は報告を持ってきた官人を見つめる。続きを話せと促しているのだ。十九歳にして次の皇帝としての自覚をしっかりと持つ賢い男に、官人は背筋を伸して報告する。
「はい。それが、陛下、ならびに東宮様が探されている奏翼です」
「ほう」
奏翼の名前に、龍聡の目がより一層鋭くなった。そして口元には楽しそうな笑みを浮かべている。
「出来れば父より先に手に入れたいところだ」
「はっ」
「しかし、目的が解らんな」
龍聡はどうして虎の娘が奏翼を探し出したのかと首を捻る。いや、そもそも探し出せたこと自体が謎だ。この十年、完全に行方不明だったというのに。
奏翼が都を去ったのは十年前。まだ戦乱の余波が残る中だった。その時も人数を割いて探させたが全く見つからず、その後も常に捜索はされていた。
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