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 日課のように毎日欠かさず美食を美酒で胃に大量に流し込み、その結果たどり着いたのが病院のベッドの上だった。  丸木(まるき)は三十代半ばにして、アルコール性肝炎で入院となった。血液検査をしてみれば、肝炎だけでなく、高脂血症、高血圧、高血糖、おまけに尿酸値も高いという不摂生が原因で患うやまいの標本のような身体になってしまった。  まあそれも止むを得まいとも思う。  丸木の父は、不動産賃貸業を営む「丸木屋商会」という古めかしい名前の会社を経営していた。丸木屋商会が所有する不動産は時価で総額20億円を超えており、毎月売り上げとして入ってくる賃料や地代は合計で一千万円に及ぶ。いわゆる地主ということになるのだろう。  またサイドビジネスとして中古車販売業も営む子会社も所有しており、こちらの子会社は父の旧友であった佐藤某という人物が社長を務めている。  事業家であった父が急逝して、一人息子だった丸木が図らずも次代の社長に就任することになったが、金持ちのボンボンとして生まれて育った丸木は、会社経営のことなどさっぱりわからない。なんとか勉強しようと試みはしてみたが、数字がびっしり並んだ計数管理表を眺めるだけで頭痛がしてくる。  子会社の佐藤某が、「あんたは黙って実務はこっちに任せてくれ、給料はじゅうぶん出すから」ということで、丸木は建前上の社長で実質無職の身になっている。  カネと時間だけは余るほどある。ほかには何もない。  独身の丸木は昼過ぎから夕方あたりに起きて、それからパチンコ屋や競馬場や雀荘で遊び、腹が減れば一人前で数万円するような高級レストランにて飯を食い、その後は夜の街に出かけて美人のホステス相手に朝まで浴びるほど呑んだり、風俗店を梯子したりして、陽が昇るころに帰宅するという生活をしていた。  そのような生活を続けることに、財布はじゅうぶんな耐性を持っていたとしても、身体のほうはそうもいかなかった。  顔には黄疸が浮かぶようになり、トイレで用を足せば異臭のする紫色の尿が出るようになった。
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