1 竹内安吾

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 ぼくはしかたなく廊下に出てカメカメのいる水槽を覗きました。  カメカメは五年二組で飼っているミドリガメです。餌やりを忘れたらぼくが四角い緑色の餌をあげます。硬そうなのにカメカメはゆっくり噛んでちゃんと食べます。  餌に飽きてカメカメはのっそりと水槽の中を歩き出しました。こつんと壁に当たって首をひっこめ、石をよいしょと登って次の石に足をかけました。もっと歩こうと思ったらまた壁にぶつかってカメカメは転がりました。予鈴のチャイムが鳴ってみんなが戻ってきました。  六時間目に国語のまとめテストがありました。ぼくは字がとても下手です。下手ですが、テストは好きです。ぼくはたくさんのお話を読める国語が好きです。 「はい、はじめぇ」  ほんとの熊みたいにおおきい熊沢先生がぱちんと手を叩きました。いつも大きな音にびくりとします。今日も驚いてぼくは消しゴムを落としました。消しゴムはころろと転がり、安永さんの椅子の下でとまりました。みんなテストが始まったばかりで気づきませんでした。お世話係の晴生くんも珍しく真剣でぼくのほうは見ていませんでした。声を出したらみんなに迷惑がかかるのでぼくは我慢しました。
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