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2 清水知沙
竜神池がぽちゃんと鳴った。すう、と心が洗われる。
今日は口紅を投げた。
竜神池というたいそうな名前だけれど、水深の浅いただのため池だ。ガマがおびただしく群生していて、隙間にごみがたくさん捨てられている。ゾウのプラスチック製じょうろとか、昔はピンク色だったゴムボールとか。そんな生気を失ったため池にあたしはときどき化粧品を捨てる。濁った水の中に吸い込まれるのを見る。竜神がこの池に住んでいるのならば、ごくんと飲み込んでくれればいい。
明日から憂鬱な日々が始まる。明日から逃げ場がなくなってしまう。
朝、家を出るとき、学校は今日までなんだと思うとえずきそうになり口の中をつばがうめ尽くした。飲み込んでこぶしを握った。こぶしをほどいて息を細く長く吐く。こうすると心は徐々に落ち着いてくる。
けれど、左手に持った燃えないゴミの袋を見るとまた頬の内側がつばを溜め始める。なんであたしは家じゅうのごみを集めないといけないんだろう。お腹の底に溜まった不安と不満を抑えることはできなかった。
外に出ようとつかんでいたドアノブから右手を離し、あたしは踵を返した。忘れ物をしたように見せかけて奥の和室に滑り込んだ。日が当たらない和室は襖を閉めると陰鬱な湿気に充たされる。
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