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乱れる息が空間を支配する。
暫く続いた沈黙の先、わたしは彼のフードを
掴んだ。
こうもしていないと、空気に押し潰されて死んでしまいそうだった。
「どうしてこんなゲーム、繰り返さなきゃいけないのかしら」
空を見上げながら言う。
すると彼も上を見上げ、
「さあな。お前が荘園の主に聞いてこいよ」
と呟く。
「なんでわたしなのよ?」
反発するようにそう言うと、彼は黙り込んでしまった。
「なぁんだ」
一気に体の力が抜けた。
これは体の限界が近づいているせいか、秘密がバレていたことを知ったせいか。
「わたしがスパイだってこと、知ってたんだ…」
「こんなにずっといれば、馬鹿でも気づくさ」
まるで全てお見通しだ、とでも言うように目を細める。
そんな彼に何故か腹が立った。
「わたしの事が怖くないの?なんで、って思わないの?───嫌いじゃないの?」
不意に、わたしが握っていた手が落ちた。
もう力が入らない。
その手を、彼が掴んだ。
そして握り返した。
「怖くなんかないさ。気づいた時は驚いたけどな。──お前のことは嫌いじゃない。」
「それに、お前は”仲間思い”なんだろ。いくらスパイだとしても、お前の命をかけて仲間を助けに行く姿は何度も見た」
腹が立った。
無性に。
自分でも理由は分からないが。
「───じゃあそれが全部、嘘だとしたら?」
フードを握っていた手を、彼の喉元に置き、力を込める。
「わたしは、スパイよ。今の貴方を殺すことだって、できるわ。
わたしは、『今の自分』以外だったら、誰にでもなれるもの。」
しかし、彼は余裕がある表情をとった。
「確かにお前は俺を殺せるかもしれない。でもな、その力の入らない手、荒い息、そもそも俺たちが失血死しそうなのはさ、仲間を命がけで助けた証拠だろ。」
不意に、喉元を押さえていた手が落ちる。
その瞬間、彼はわたしの手を掴み、優しく握り返した。
「ありがとう」
「そんなこと真剣に言うなんて、らしくねえぞ!」
「うるさいわねッ!」
はは、と彼が笑う。
一瞬だけ、もとの空気に戻れたような気がした。
しかし、傷がギンギンと痛み、頭もガンガン
と痛い。
それはもう、死んでしまうことを告げていた。
「”次のわたし”には、バレないように頑張って欲しいわね…ッ」
もう息が出来ない。
これがわたしの最後の言葉だと悟った。
「ああ、そうしてくれよ。知らないフリをしているのも、疲れるんだ……」
薄れていく意識のなかで、彼がキスを落とした。
”【サバイバーは失血死しました】”
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