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彼女は自分でその魅力に気がついていない。ぷっくりと赤く色づいた唇に、少し垂れた目尻。彼女を幼く見せるのはその大きな瞳のせいだろう。肩のラインで切った髪をいつか伸ばして欲しい。艶やかな黒髪の彼女を、白いシーツに寝かせてその髪を揺らしたい。
とびっきりの美人というわけではない。だが、景子には男を蕩けさせる魅力があった。はにかんだ笑顔も、驚いて口を開けてしまう仕草も、上目遣いに僕におねだりすることも、全てが愛しい。これまでの僕は音楽にしか情熱を傾けることが出来なかった。だが、彼女は僕に新たな命を吹き込んでくれた女神だ。
「別荘のプライベートビーチだから、安心しろ。他にお前の水着姿を見るヤツはいない」
「えっ、別荘ですか?」
「二時間も車を走らせれば着くところだ」
本当は僕が運転して二人でドライブしたいが、まだ僕が十四歳だと信じ切っている景子を騙したままにしておきたい。運転手を手配して乗り込むと、景子は照れながらも嬉しそうにしている。
「なんだ、海は初めてなのか?」
「海は見るだけで……、海水浴なんて、信じられない」
「僕より景子の方が年下みたいだな」
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