文字の中のアリーチェ

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 ***  私が予想した通り。  MINAKOこと生島美奈子(いくしまみなこ)は半月ほど前から、家に転がり込んできた彼氏に実質自宅に監禁されているような状況だった。仕事は許して貰ったものの、メールの文章は全て送受信時に確認され、ライターの原稿も逐一チェックされる。そして、ネットの閲覧は許されない。できるのは仕事のために彼に頼んで、図書館から本を借りてくることだけ。狂気的な独占欲によって、暴力を受けつつ自宅に閉じ込められ、外界から完全に隔絶された環境に置かれてしまっていたというのだ。  もしあの時、私に遊び心が芽生えなかったら。探偵どりで原稿をチェックしたりしなかったら。きっと、彼女が壊れるまで事実に気づかれることはなかっただろう。 ――履歴書に書いてあった住所から、お引越ししてなくて本当に良かった。  暴力反対。絶対駄目。  救出された彼女の心が癒えることを祈りつつ、私は今日も自分の仕事に邁進している。
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