文字の中のアリーチェ

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 ***  MINAKOさんに今回お願いしているのは、とある人気漫画に関する記事であった。  自分達の情報サイトが取り扱うジャンルは多岐に渡る。そんな中、漫画系はハードルが低い反面、滅多なことを書くとすぐ炎上しかねないので慎重に取り扱わなければいけないジャンルでもあった。ゆえに、内容も誤字脱字も、非常に丁寧なチェックが求められるのだが。 ――うーん。  私は、早々に首を傾げるのだった。 ――何で最近になって、こんなやらかしが増えたんだろ、MINAKOさん。  彼女が最近よくやるようになってしまったミス、というのは主に三つ。  一つは、やや奇妙で不自然な言い回しが増えたこと。漢字で書くべきところを平仮名で書いたり、逆に平仮名の方がすっきりするところが漢字になっていたりすること。まあ、これは慣れたライターでもやることがあるので、これだけだったらミスと言うほどでもないのだが。  さらに二つ目、これが問題。ライターさんには可能な限り客観的に情報をまとめて貰わなければいけないわけで。当然、“私は”という一人称が混じっていたり、“思います”という明らかに主観的な文が入っていてはならないのである。ところが、ここのところ彼女はこれらをやたら多用するようになった。文字数が足りていないわけでもないというのに、だ。  そして、三つ目。ライターさんにお願いする記事は、数字を全て半角で揃えるようにと頼んであるのだが。彼女はここのところ、ちょいちょい全角数字を混ぜて書いてしまうようになったのである。今までは、こんなミスは殆どなかったというのに、だ。 ――ミスを頻発するほど、落ち着いて記事が書けてない、とか?でも、メールの文章は綺麗だし、おかしなところはなんもないんだけどなあ。  彼女の記事が荒れ始めたのは大体半月くらい前からのことである。その半月前に、何か心境の変化でもあったのだろうか。 ――そういえば、半月くらい前の記事から……一つおかしいって思ってることがあるのよね。  私は提出された文章をスクロールして、一番下まで引っ張った。記事の最後には必ず、参考文献や参考URLを記載して貰うことになっているのだが。  以前まで、彼女はネットの記事を参考にして自分の文章を書いてくることが殆どだったのである。しかし、半月くらい前からは、ほぼほぼ図書館などの本からの引用や、その情報を元にした執筆を行うようになったのだった。  メールを送ってくるのだから、ネットが使えない環境であるはずがない。ワードで打ってきているのだから使っているのも普通のパソコンであるはずだ。
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