文字の中のアリーチェ

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 けして複雑怪奇なものではないはずだ。この文章を見ているであろう“監視者”に暗号だと気づかれず、かつ簡単に解けるものでなければ意味がない。それこそミステリー小説にあるような、専門知識がなければ解けないような複雑怪奇なものを、切羽詰まった人間が思いつけるはずもないのだから。 ――そういえば、妙に文章に数字も多い。半角の数字の文、全角の数字の分。これに意味があるとしたら。そう、シンプルに考えるなら……縦読み、とか。  私は試しに、本来のライターのルール違反に該当する“全角数字”が出てくる文章を冒頭から抜き出して並べてみた。すると。 『かわいそうだ、と彼は2度もケリーに訴えています。』 『かた方のアピールだけ聞くならば、彼の2度3度の主張は正しいように聞こえるでしょう。』 『あしたがないケリーにとって、1度で望みが敵わないのはまさに死活問題だったと言えます』 『かをを30度ほど傾けて、彼が言うに。』 『あたしに3度目のチャンスをくださいと彼女は告げました。』 『アスラがこの時いたのは53階の棟だったはずなのです。』 『駆けつけるには、10キロという非常に長い距離がありました。』 『あてもない道をそれでも走り抜けることができたのは、暴力的なまでの情熱が合ったからと考えるのが自然です。』  冒頭の文字では、意味が通じない。流石に冒頭の縦読みではバレると考えていたなら、そうチャレンジもできないだろう。だが、MINAKOさんは最初にヒントを記している。何故なら、この漫画の設定に忠実に書くならば、一番最初の文章は“3度もケリーに訴えています”でなければおかしい。何故、数字を減らしたのか。これは、頭から二文字目を拾って欲しいということを指しているということなのではないか?  全角数字が使われている文だけ抜き取り、二文字目を並べれば出てくる文は。 『わ た し を た ス け て』  顔を、が“かをを”などという不自然な誤字になっていること。明日をわざわざ平仮名であしたと書いていること。  そして出来上がった縦読みの文。流石にこれは、無視できない。 「……すみません、木島さんいますか!?チェック担当の、笠松ですが!」  私は慌てて、スマホで上司に連絡を入れたのだった。MINAKOさんの文章がおかしくなってから、既に半月が過ぎている。そろそろ限界が近いかもしれない。
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