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新しい旅立ち
「母さん! 早く! 早く! 入学式遅れちゃうよ!」
今日は私、 安西 梨花の南東高校の入学式。
家は、父を幼いときに事故で亡くし、母と2人の母子家庭。
だから、私は母に負担かけないように、家から1番近くて必ず合格する都立高校を選んだ。
中学校の担任は、もっと偏差値の高い上の高校に挑戦しても大丈夫だと言ったが、私立へは経済的に無理なので、落ちたら次がない。
学校へのこだわりもそれほどなかったので、近くて自転車でも通えるのが1番良いと思い、ここにした。
家は小さな喫茶店 向日葵を、母だけで切り盛りしていたため、今日は ❲午前中お休みします❳ の張り紙をして母と2人で入学式に出かけた。
さぁ! 私は今日からは高校生。
体育館の前には、新入生のクラスと名前が書かれた掲示板と、クラスの場所を示す地図が張り出されていた。
母は先に体育館に入り、入学式の保護者席に座って待機。
私は体育館前に、張ってあったクラス分けの張り紙を確かめようと、人混みに割り入って名前を探し始めた。
あった! と、思わず声を上げて勢いよく後ろを振り向いたとき、オデコに激痛が走った。
「痛たっ」「痛て〜!」同時に声がした。
おでこにフニャとした感触の後に、ガチッと何かが当たった感じがした。
あれっ? もしかして歯? だとしたらフニャは、く、くちびる? いや〜? まさか・・・まさか・・・
それはない! それはない!
そっと顔を上げると、私の頭より上に、手を口に当てた男子の顔があった。
ごつい顔が私の頭上から睨んでいた。
目が合ったとたん「ごめん!」と、言ってその場を逃げさるように立ち去った。
私は女子では169cmと大きい方なので、あまり人の頭とぶつかることはなかった。
よりによって、その私より大きいごつい男子に、初デコキスされるなんて・・・ありえない! これは事故! 事故! なかったことにしよう。
と、心の中で呟いた。
教室に入ると、各机に名前が貼ってあり、あ、安、前から2番目の窓側、ラッキーと座って外を眺めていると、突然、
「おい! そこ退けよ! 俺の席!」
低い男子の声がして、見上げると、そこにはさっきのデコ事故の相手が・・
焦りながらも、
「えっ? ここは、あ、あんどう? 藤?」
「そう! あんどう! 俺の名前!」
「私、あんざい! 西・・・サイがない!」
後ろを向いたが「い、井上? 私の席がない?」
「おまえ! おっちょこちょいか? バカか? どっちかだな!」
「えっ?バカ?って・・・」
「この列は、男! 横! 女! 分かったか?」
隣の横の机には、確かに〔安西梨花〕って張り紙がしてあった。
そして、今座っている席には安藤 翔太とあった。
また、「ゴメン!」とだけ言って、隣に座った。
これから1年?・・・最悪な隣席になった。
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