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入学式と教室での説明が一通り終わって、校門をくぐると大勢の親が子供の帰りを待っていた。
同じ中学からの友達も両親と楽しそうに歩いていた。
またね! と手を振り挨拶して1人で駅に向かった。
1人で帰るのがバツ悪く何故か足早になってしまっていた。
駅までの道のり、段々と足が早まり、いつしかランニング状態に・・・
やっぱり親とお喋りしながら帰る子を見ると、少し羨ましかったのかもしれない。
駅につくと同時に電車が入って来た。
急いでホームまで駆け上がり、滑り込みセ―フで電車に乗りこんだ。
扉が閉まろうとした時、後ろからドン! と奥まで押しこまれた。
「ギャ!」「俺もセ―フ!」
また、あいつだ。
倒れそうになった私の腕をギュッと掴んで支え、2人でファッ~ファ~! 息を切らしながら向かい合った。
「結構速えなぁ〜。急いで帰らなくちゃなんねえの?」
「別に! ただ走りたかっただけよ」
うるさいから離れようとすると、何だかんだ話しかけてくる。
「どこで降りるの?」
「3つ先!」
「俺、その2つ先!」
別にどうでもいいと無視していたら、
「おふくろさんに宜しく言っておいて! うちのおふくろ、本当に方向音痴でさぁ~、この間も、初めて行ったデパートから迷子になって、普通30分で帰れる所、2時間かかって帰ってきたんだぜ!」
「分かる・・・・」
私は笑えない。だって私もやらかしそうだから・・・
「へっ? あっ! そうか? 梨花も同類かぁ~! ハッハッハ」
「笑うな! 本人は帰り道考えるのも真剣なんだから!」
と、真顔で抗議するも
「うちのおふくろと買い物に行ったら、2人でアッチだコッチだって言って、もっと迷子になりそうだな! ハッハッハ」と、笑い飛ばされた。
「たぶん・・・でも、ご心配なく! あんたのお母さんと一緒に買い物なんてありえないから!」
あいつは不服そうに
「ふ〜ん! そお〜? 気が合いそうだけどなぁ! でさぁ! あんたって言うなよ! 翔太でいいって言ったろ! あんたって呼ぶなら、俺もお前って呼ぶぞ!」
私は黙ってあいつを睨んだ。
降りる駅で、何も言わずに手を上げて別れた。
背後から
「じゃあ! また明日な! 梨花!」
振り向かずに改札を出て、線路沿いを歩こうとした時、車窓から笑っているあいつと目が合った。
思わず、二指の敬礼ポーズをしてしまった。
挨拶がわりに・・・明日な! 翔太! ・・・・
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