32人が本棚に入れています
本棚に追加
授業が終わり、気になっていたツバメを見に行こうとしたとき、
「翔く~ん! 一緒に帰ろう!」と甘ったるい声が聞こえた。
「えっ? しょ~・・翔くん?」
思わず翔太の顔を見てしまった。
私からは、絶対出ない甘ったるい声だった。
そこには、少女漫画から抜け出たような小柄な可愛い女の子が、翔太の腕にぶら下がっている。
でもなぜか、翔太は腕を外そうともがいていた。
お邪魔だろうと、そっと席を立とうすると、
「ツバメ見に行くのか?」と、翔太が聞いてきたので、
「うん! あっち行ってみてくる」と答えると、
彼女が「ツバメ? ツバメは糞が落ちてくるから嫌だわ」
と言った。
「そうだね! でも、赤ちゃんツバメは可愛いよ!」
とだけ言って、私はその場を離れた。
向いの特別教室の窓から下を覗くと、巣の中に卵が数個見えた。
嬉しくなって向かいの窓にいた翔太に大声で、「た〜ま〜ご!」と、叫んでしまった。
あっ! いけない! あいつは今お取り込み中だった。
急いで
「明日見て! 明日ね!」
と、言ったのに翔太が駆けつけてきた。
「おっ! ほんとだ! 卵いくつ有るんだろう?」
「う~ん ちょっと良く見えないけど、分かるだけでも3つかな? 無事孵ると良いんだけどね!」
「ここは、カラスもあまり来ないから大丈夫だろう」
「そう? 良かった! あれ? 彼女は?」
「帰った!」
「一緒に帰るんじゃなかったの?」
「俺、入部の挨拶があるから・・・・」
「私も、ちょっと新聞紙貰ってから帰るから」
「新聞紙? 何するの?」
「ほら! 翔太の彼女が言ってたじゃない、糞で汚れるって! だから巣の下に新聞紙敷いて置こうと思って! そうすれば、嫌だって思われないかもしれないでしょ」
「ごめん! 嫌な思いさせたな・・・」
「ううん!違うよ。巣があることを良いと思う人ばかりじゃないんだなと思って・・・私は人とツバメが楽しく共存出来ればいいなぁ〜って、思っただけだよ。雛が無事孵るまで、下に新聞紙敷いておけば少しは汚いって思われないでしょ! じゃあ! またね」と、別れようとしたら
「新聞紙なら用務員室だ! 一緒に貰いに行こう!」と、腕を取られて走り出した。
一緒に? またまたこの状態に頭がついていけない・・・・
2人で新聞紙を貰いに行き、ツバメの巣の下に敷いて、ガムテープで固定した。
そしてその上からマジックで、
(頭上注意 ツバメの巣あり) と書いた。
「これで大丈夫かな。 さぁ! 帰ろっと!」と立ち上がると
「部活の挨拶すぐ終わるから、校門でな!」
と、翔太は駆けて行ってしまった。
えっ? 校門で? なんで? 校門の前まで来たが、待っていて良いのかどうか分らずウロウロしていると、暫くして、息を切らして翔太がやって来た。
「私、今日から自転車なの。だから・・・別々」
「あっそう! じゃ、校舎の角まで俺が押して行くから、あそこから2人乗りして行こう!」
「えっ? 2人乗り? 違反だよ」
聞こえないのか、自転車の籠に2人の鞄を乗せて、さっさと引っ張り始めた。
私も仕方なく横に付いて歩き始めた。
ツバメの習性について、
秋にオーストラリアの5000kmも離れた南の国へ移動すること、
1日に最長で300kmも移動すること、雌雄共に子育てすること等
お互いの知っている知識を自慢するように話ながら歩いた。
「あんな小さな体で凄いよね!」
「俺らデカすぎて、飛べないかっ! ハッハッ」
「空は飛べないけど、陸は跳ねられるよ!」
「じゃ~、陸で頑張るしかないな!」
ちょっと、楽しくなった。
最初のコメントを投稿しよう!