つばめ

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授業が終わり、気になっていたツバメを見に行こうとしたとき、 「翔く~ん! 一緒に帰ろう!」と甘ったるい声が聞こえた。 「えっ? しょ~・・翔くん?」 思わず翔太の顔を見てしまった。 私からは、絶対出ない甘ったるい声だった。 そこには、少女漫画から抜け出たような小柄な可愛い女の子が、翔太の腕にぶら下がっている。 でもなぜか、翔太は腕を外そうともがいていた。 お邪魔だろうと、そっと席を立とうすると、 「ツバメ見に行くのか?」と、翔太が聞いてきたので、 「うん! あっち行ってみてくる」と答えると、 彼女が「ツバメ? ツバメは糞が落ちてくるから嫌だわ」 と言った。 「そうだね! でも、赤ちゃんツバメは可愛いよ!」 とだけ言って、私はその場を離れた。 向いの特別教室の窓から下を覗くと、巣の中に卵が数個見えた。 嬉しくなって向かいの窓にいた翔太に大声で、「た〜ま〜ご!」と、叫んでしまった。 あっ! いけない! あいつは今お取り込み中だった。 急いで 「明日見て! 明日ね!」 と、言ったのに翔太が駆けつけてきた。 「おっ! ほんとだ! 卵いくつ有るんだろう?」 「う~ん ちょっと良く見えないけど、分かるだけでも3つかな? 無事孵ると良いんだけどね!」 「ここは、カラスもあまり来ないから大丈夫だろう」 「そう? 良かった! あれ? 彼女は?」 「帰った!」 「一緒に帰るんじゃなかったの?」 「俺、入部の挨拶があるから・・・・」 「私も、ちょっと新聞紙貰ってから帰るから」 「新聞紙? 何するの?」 「ほら! 翔太の彼女が言ってたじゃない、糞で汚れるって! だから巣の下に新聞紙敷いて置こうと思って! そうすれば、嫌だって思われないかもしれないでしょ」 「ごめん! 嫌な思いさせたな・・・」 「ううん!違うよ。巣があることを良いと思う人ばかりじゃないんだなと思って・・・私は人とツバメが楽しく共存出来ればいいなぁ〜って、思っただけだよ。雛が無事孵るまで、下に新聞紙敷いておけば少しは汚いって思われないでしょ! じゃあ! またね」と、別れようとしたら 「新聞紙なら用務員室だ! 一緒に貰いに行こう!」と、腕を取られて走り出した。 一緒に? またまたこの状態に頭がついていけない・・・・ 2人で新聞紙を貰いに行き、ツバメの巣の下に敷いて、ガムテープで固定した。 そしてその上からマジックで、 (頭上注意 ツバメの巣あり) と書いた。 「これで大丈夫かな。 さぁ! 帰ろっと!」と立ち上がると 「部活の挨拶すぐ終わるから、校門でな!」 と、翔太は駆けて行ってしまった。 えっ? 校門で? なんで? 校門の前まで来たが、待っていて良いのかどうか分らずウロウロしていると、暫くして、息を切らして翔太がやって来た。 「私、今日から自転車なの。だから・・・別々」 「あっそう! じゃ、校舎の角まで俺が押して行くから、あそこから2人乗りして行こう!」 「えっ? 2人乗り? 違反だよ」 聞こえないのか、自転車の籠に2人の鞄を乗せて、さっさと引っ張り始めた。 私も仕方なく横に付いて歩き始めた。 ツバメの習性について、 秋にオーストラリアの5000kmも離れた南の国へ移動すること、 1日に最長で300kmも移動すること、雌雄共に子育てすること等 お互いの知っている知識を自慢するように話ながら歩いた。 「あんな小さな体で凄いよね!」 「俺らデカすぎて、飛べないかっ! ハッハッ」 「空は飛べないけど、陸は跳ねられるよ!」 「じゃ~、陸で頑張るしかないな!」 ちょっと、楽しくなった。
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