キリン

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キリン

校門から少し歩いた曲がり角で、翔太が 「後ろ乗れよ! 俺、漕ぐから!」 「でも、私重いよ! 2人乗りは無理だよ」 「大丈夫! 今日、部活無かったから、筋トレ代わりでちょうどいいや! ツバメじゃないから、陸で頑張るしかないからな! 早く! しっかり掴まっていろよ!」 デカイ2人が、小さい自転車に2人乗り・・・目立つ! 目立つ! 翔太は大通りを避け、横道クネクネしながらも結構なスピードで漕いて行く。 私は、最初は女の子らしく横乗りのお姫様乗りをしていたが、自転車のスピードにユラユラして危なっかしく、これでは落ちるとおもい、 「ちょっと止めて!」 「えっ? どっか寄るのか?」 「ううん! 違う! 乗り方変える!」 と言って自転車を降りて、サッサと自転車の荷台に跨った。 「え〜え?梨花パンツ・・・パンツ見えるぞ!」 「大丈夫! 見えてるのは運動着の短パンだから! 女子は自転車乗る時は皆そうしてるんだよ! ご期待に添えずゴメンナサイ〜! バカ!」 「チェッ! つまんないの!」 「これなら、スピード出しても大丈夫だよ! 私体幹鍛えてあるから、落こっちないよ!」 「よし! じゃぁ! ハイスピード出すから、ちゃんと掴まってろよ!」 二人乗りなんていつぶりだろう? 父さんの腰にしがみついていたのは4才頃かな? 父さんと同じくらいガッチリした翔太の腰に手をそっと遠慮がちに回した。 爽やかな風が頬を通り過ぎていく。 途中、川原の道で翔太が 「急ぐ? 少しここで休憩してってもいいかな?」 「うん! 大丈夫だよ」と言って自転車を降り、川原へ足を向けた。 入学式から1週間は授業は午前中のみ。 川原は4月の暖かな陽射しと、草の香りがふわぁ~と漂い、気持ちよかった。 翔太は、目を閉じて河原に仰向けに寝っ転がっていた。 「私みたいなデッカイのを乗せて走るのって大変だよね。重くてゴメン! 小さくて可愛い女子、あっ!そうそう! 翔太の彼女みたいな子なら、もっとスイスイ走れたのにね!」 嫌味ではなく、本心そう思った。こういうときはデカイって損だな・・・ 翔太は何も言わなかった。 「私、中学の頃、皆んなが、なんの動物に例えられるって話しをしていたら、私はキリンだって言われたの。女子でキリンはちょっとイマイチだよね。他の子は大抵、リスとか仔猫とかハムスターとか可愛い動物に例えられてたのに・・・まぁ〜、ゾウって言われないだけキリンでもいいか? ブッハァハッ!」と、大笑いしてごまかした。 「俺、キリン、カッコいいし、あの目・・・可愛いと思うよ!」 真顔で、そんなこと言わないでよ、誤解しそうだからと、心の中で呟き 「またまた、無理してそんなこと言わなくてもいいから。 彼女・・・酒井さんって言ったっけ? 酒井さんは可愛い子猫って感じだもんね。でも・・・翔太ってゴリラ? 子猫とゴリラって?? 彼女はゴリラより、白馬に乗った王子様を待ってるって感じだけどなぁ?」 「うっせい! 梨花も白馬に乗った王子様待ってるのか? 永遠に来ないと思うけど!ハッ!」 「白馬に乗った王子様? 私? 気持ちわり~! 私ね、(ロロノア・ゾロ)を待ってるの!」 「へっ?  ロロノア・ゾロってONE PIECEの?」 「クールで勝負ごとには同情も泣き言も一切なく、一度決めたことは何事も貫き通す。カッコイイ! これぞ男って感じ! でも・・・いないな! そんな男! ふっ!」 「男も惚れる男ってか?」  「あっ! さっきの一部訂正! ゴリラってカッコ良いんだよ。名古屋のジャパーニって知ってる? 超イケメンなの! 翔太よりイケメンよ! だから翔太はゴリラより降格のオラウータンかな? ウフッフ!」 「え~! ゴリラから降格なのか? ひぇ~! まっ、キリンとならオラウータンでも似合いそうだけどな・・・」 「はぁ~~? 何言ってんの? バカ!」 こいつはホントに何言ってるんだか、自分で分かっているのだろうか? と思った。 川原での戯言・・・そう思おう!
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