──Prolog──

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「お帰りください。今はどなたとも会いたくはありません」  インターホンから聞こえてくる声は無機質で、無理矢理に感情を押し殺しているようでもあった。  要件と名前を告げる前に先制攻撃を受ける形となったジャック•ハモンドは、言い難い表情を浮かべてカメラのレンズを見つめる。  一瞬の沈黙の後、こちらから言葉を切り出す前に、またしても感情の無い声が聞こえてくる。 「今、ようやく娘を寝かし付けたところなんです。……これ以上居座られるようでしたら、警察に通報させていただきます」  その声は、決して大きなものではなかった。けれど、何物をも拒絶する強い意思が感じられた。  頑なな先方とこれ以上交渉をしても、進展はないだろう。  ジャックはため息を漏らすと、カメラに向かい深々と一礼する。 「大変失礼いたしました。エド……ご主人のご冥福を心より……」  その言葉が終わらぬうちに、スピーカーからプツリ、と切断音が聞こえた。  どうやら完全に面会を拒否されたらしい。  いや、真実は先方に伝えてはいないが、事故で生命を失った彼女の夫に倫理規定違反の蘇生手術を行うなどという、拒絶されて当たり前な事をしでかしたのだ。
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