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02 Sio.side
玄関には今日も、あいつの靴はない。
帰る家はここしかないはずなのに、今日も帰ってくるつもりがないらしい。
冷蔵庫には、何本かのビールと一人分の食材。
一人暮らしをしてるみたいだ。
二人で暮らすために借りた部屋で。
あいつは、俺を裏切っているかもしれない。
もう俺を捨てるつもりかもしれない。
他の人を愛しているかもしれない。
俺自身ももう、あいつを愛することに、疲れてしまっているかもしれない。
一人でいると次々と浮かんでくるそんな疑問達に、全て自分自身で答えていく。
俺は裏切られてなんかない。
捨てられたりなんかしない。
俺は、あいつに愛されているし、俺もあいつを、まだちゃんと愛している。
そこまで考えて、口の端から嘲笑がこぼれ出る。
本当は答えなんてもうとっくに出ているくせに、俺はそれに蓋をして、見てみぬふりをしている。
最近、よく不思議な夢を見るようになった。
夢の中で、俺は川の縁に立っていて、向こう岸に、あいつと悟が立っている。
俺は二人がいる向こう岸に行きたくて、必死に、二人の名前を呼んで、手を伸ばす。
その声がようやく二人に届いた時、躊躇いなく水の中に飛び込んで、俺に向かって歩いてきてくれるのはいつも悟だった。
あいつはただ俺の呼びかけに、伸ばした手に、目を逸らし続けている。
悟の手を、握る瞬間。
いつもそこで目が覚める。
きっと、この夢は警告なんだろう。
その手を握ったらもう、戻れなくなってしまうから。
でも、その手を振り払ってまで守りたいものなんて、今の俺にあるんだろうか?
今のままじゃ、ただ逃げてるだけなんじゃないのか?
ぐるぐる考えているうちに、俺はまたあの夢を見ていた。
向こう岸で目を伏せているあいつの姿と、もう少しで触れそうな悟の手。
どれだけ悩んでも、夢の中の二人は、俺に答えをくれない。
あいつが川を渡ってきてくれることも、悟の手が触れることもない。
俺が、答えを見つけなきゃいけないんだろう。
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