03 Satoru.side

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03 Satoru.side

今日は珍しく、映画でも観に行かないかと汐の方から連絡があった。 いつものように家まで迎えに行き、いざ映画館に着いて汐が観たいと選んだ作品は、特に何ということはない有りふれた流行りの恋愛映画だった。 「良い映画だったね」 「……うん」 紆余曲折を乗り越えながら、純愛を貫き通す…そんなストーリーの映画だった。 俺には少し退屈だったけれど、汐は、何かを決意したような真剣な眼差しで、エンドロールを眺めていた。 何か、思うところがあったのかもしれない。 汐の右手に、いつもしていた指輪がないことに気がついたのは、帰りの車に乗り込んだ時だった。 何かあったのか、と聞こうとして、ただ黙ってアクセルを踏み込む。 タイヤは緩やかに滑り出し、日が沈み始めた街へ繰り出していく。 鮮やかな赤紫色に染まった空が、汐の横顔を照らしていた。 どんなに辛いことでも、どんなに耐えきれないことでも、本当に耐えきれなくなるまで、汐はそれを誰にも話さない。 そんな甘え下手で不器用な性格を、あいつなら変えてくれると信じていた。 「次の信号、左に曲がったらさ…大きいショッピングモールがあるでしょ?」 暫く街を走った頃、窓の向こうの景色をただ見つめていた汐が、不意にそう言った。 「うん。それがどうかした?」 「そこの向かいに、マンションがあるから…そこに、行ってもらってもいい?」 すぐに、返事を返すことはできなかった。 少し奥まった人目につかない場所に建っている高いマンション。 そこには、汐の見たくないものが、目を逸らしてきたものがある。 「…汐」 「お願い、悟」 俺は、黙って頷き、信号を左に曲がった。 一度決めたことは覆さない汐の性格を、俺はよく知っている。 だから、ここまで耐えてきて、そして今、はち切れそうになっていることも。
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