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おかえり
よく晴れた日曜日の休日俺は街を歩いていた…
久しぶりの休日、俺はその喜びを噛み締めながらお店を見ていた。
街には、パン屋、魚屋、八百屋など色々な店がある。
しかし、そんなお店の中一つだけ異形の光を放つ店があった。
それは、古着屋さんだった。
ここは、つい最近まで何もなかったはず…
新しくオープンしたのだろうか ……せっかくだし入ってみるか……
俺の家は借金をもっている……
俺が小さい頃、親父が事故に遭い死んでしまったからだ。
その為貧乏なので、買う物は安く、コストの余りかからない方がいいが、折角息子の入学式の為に良いものを着せてやりたい……そんな親心があるがどうも家計が厳しいので服を借りる事に決まった。
正直、俺にはセンスというものがまるっきり、ないが嫁は、スーツの事はさっぱり知らないというので、スーツを毎日着るサラリーマンの俺が息子の入学式のスーツを探しに来た。
そして、今現在。
俺は、今古着屋さんの中にいる。
古着屋さんの中はとても洒落ていて、和風な感じで渋くてカッコいい…
そんな事を思いながら、店の品を見ていると、とあるスーツに目が入った。
「あの、すみません…」
「はい、何でしょうか。」
「こちらをお借りしたいのですが……大丈夫ですか?」
そのスーツは紺色でとても綺麗なスーツだった。
「はい、こちらの商品ですね…予約はありませんね」
「おいくらですか?」
「そうですね……一週間で五百円ですね。」
安っ!安すぎる!買い手にとってはとても懐に優しいお値段だが…この店経営成り立つのか?
まぁでも安いのに越したことはない…
しかも、見た目も糸のほつれなどなく綺麗…
優良物件である。
俺は、値段と見た目に惹かれ、このスーツを借りることにした。
これなら、息子も喜んでくれるだろうか?会計を終えて、ほくほくした気持ちで店を出て行こうとすると不意に店員さんに呼び止められた,。
「お客様!お待ちください!」
「はい、なんでしょうか?」
「そちらの、スーツ“喋りますけど”大丈夫ですか?」
「は?」
服が喋る?いったい何言ってんだ?この人…
「ご理解頂けないと思いますが…この服は先程言ったように“喋る”のでこのお値段です。
いつもなら、先にご質問してるんですけど今回は、うっかり忘れてしまい…申し訳ございません…それでも、お客様はお借りになりますか?」
「全然、言ってる意味が分からないんですけど……借りますよ。こんな素敵なスーツですし。」
それに、息子の喜ぶ顔が見たいのもあるけどな…
「あの…ちなみに…その、服は何で喋るのですか?」
そう…どう考えても服が“喋る”所なんて想像できないのだ…喋ったとしたらそれは余程の【ファンタジー】な事である。
そんな事を考える俺をよそに店員さんは人懐っこい笑顔で答えてくれた。
「我々もイマイチ原因は分からないのですが…服は色々な方々が着てくださいましたからね。色々な思い出が詰まっているんですよ、特に元の持ち主の思い出が一番….
その、過去のことを話したいのか、喋り出すんですよね…」
店員さんの説明を聞いてポカーンとする頭のまま、真っ直ぐ家に帰る為に、車を停めていた駐車場に移動した。
俺が車に乗り出すと、スーツが袋の中から、這い出て喋り出してきた。
「こんにちは、貴方が今日着てくれる人ですか?」
「は?」
本当に喋った……確かに店員さんは喋ると言っていたけど……
でもまず…一つ言えることは…
「ごめんね、俺が着るわけじゃないんだ。
着るのは俺の息子だよ。」
そもそも、俺の体のサイズとこのスーツのサイズは合わなすぎる…
着てもらえないとの言葉を聞いた“スーツ”は質問をしてきた。
「子供がいるのですか?」
「うん、そうだよ」
「懐かしいですねー、一番最初の持ち主も子供だったんですよ……確か、あの時は小学校の入学式でしたかねー。私を着た男の子もの凄い喜んでて、それから僕を着るとき毎回大切にしてくれて着ると『僕、大人になって家族が出来たら自分の子供にもこのスーツ着せるんだ!』って……可愛くて可愛くてしょうがなかったのを覚えています。」
そんなにその子このスーツが好きだったんだなぁ…いい話だ。
俺も昔は気に入った物はあだ名よく、付けたなぁ…懐かしい……
「そうなのか……あの失礼な事を聞くけど…何で売られてしまったんだ?」
そんなに大切にしてもらってたなら、何故売られてしまったのか謎である…
「それはですね……詳しくは分からないですけど…その子の父親が急死されてしまって……家計が苦しくなって仕方なく売ったみたいです……」
「へぇ……その人も大変でな。俺も親父が事故を起こして死んでしまって、小さい頃に……」
「…なんかすみません…」
「いえいえ…」
でも、何か分からないけどこの“スーツ”愛着が湧くんだよな…
そんな風にスーツと喋っていると、そろそろ自宅が見えてきた。
家についたら、このスーツとは喋れなくなってしまう…
普通は“スーツと喋る”何てあり得ないことだ。
ましては、大の大人が一人で喋っている光景を見たら誰でも怪しむ光景だろう…しかし、スーツが話し上手なのかとても話が進む。
俺は気になったことをスーツに質問した。
「その子はどんな子だったの?」
「そーですね……あんまり顔は覚えてないんですけど確か、私のことあだ名で呼んでくれてましたね。
よほど、気に入っていたのでしょうか?」
それって、もしかして……
「ただいまー」
俺が玄関の鍵を開け中に入って行くと……
「パパ〜!!」
息子が玄関から、お出迎いしてくれた。
「あっ!あの子です!あの子、あの子が私の最初の持ち主でした!」
そっか…そっか……
「おかえり…スーちゃん」
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