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マンションに戻って来ると、向井さんが待ってくれていた。
「ただいま」
向井さんに言った。
「おかえり」
「車、ありがとうございました」
蒼が向井さんに鍵を渡す。
「あぁ、これからの活躍、期待してるよ」
「はい、向井さんは負けません」
二人が握手していた。
「じゃあ」
蒼を残して車が走りだす。蒼がずっとこっちを見ていた。
「行ってきます」も「さよなら」も言わずに別れた。
眼下に拡がる光の何処かにいる蒼を探していた。
フライトの時間を向井さんが教えてくれていた。
俺は、飛行機が1番良く見える場所に来ていた。
何機もの飛行機が頭上を飛んで行く。
周りにはカップルや家族が同じように空を見上げていた。
きっと大切な人の旅立ちを見送る人もいるんだろうな。
定刻になった。多分あの飛行機に詩音が乗っている。
俺は両手を高く上げて、思いっきり振った。
「詩音」
大きな声で叫んだ。
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